『いつかの夏へ』
5

 目が覚めるとそこは病院でベッドの上だった。

 お父さんとお母さんが心配そうな顔で私を見ている。

「私…」

「急に倒れたのよ…大丈夫?」

 体も頭も重かった。

 お母さんが私の頭を撫でながら目に涙を浮かべている。

 腕には点滴の針が刺さっていた。

「真子……それでこの傷なんだけど…」

 お母さんが私の頬に触れた。

「アイツはお前の事も殴ったのか?」

 お父さんが低く唸るように呟いた。

 信じられなかった。

 まるで雅樹が誰にでも殴るような言い方だった。

「私…雅樹のとこ行かなくちゃ…雅樹が戻ってくるの。待ってるって約束したのぉ!!」

「アイツは警察だ!戻って来ないっ!」

「戻ってくるのっ!だって雅樹は悪くないっ!私の為に…私の為に…」

 そして私はすべてを打ち明けた。

 二人とも何も言わなかった。

 何も言ってくれず何も教えてもらえず家に戻った私を一歩も外に出さずに一日中監視した。

 雅樹に会いたかった。

 でも雅樹のバイクの音が聞こえる事はなかった。

 戻ってくると約束してくれたのに電話も手紙も来なかった。

 私は一日中部屋に閉じこもったまま考えるのは雅樹の事だけだった。

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