『いつかの夏へ』
3
何も言わない二人だからこそおかしいと思った。
「雅樹…ダメだよ…」
「ここで待ってろ。鍵掛けとけ」
短い言葉に雅樹の強い怒りを感じる。
雅樹は上着を羽織った。
そう言えばてっちゃんも同じような上着を着ていた。
「待って…」
玄関に向かう雅樹の後ろ姿を追いかけた。
ドンッと体当たりするように雅樹にしがみついた。
「ダメッ…そんな事しちゃダメッ…」
「真子、それだけは聞けない」
「でもっ…」
雅樹は振り返ると抱きしめてくれた。
私は不安で不安ですがるような目で雅樹を見上げた。
とても優しい仕草で私を抱きしめてくれているのに私を見つめるその瞳はとても強い光を放つ。
行かせないと雅樹の服を握った。
「真子。俺の最後のワガママだと思って」
「最後…?」
「あぁ…戻ったらバイト辞める。二人で宿題終わらせような、んでプール行こう、テツ達と花火も…真子の食べたいって言ってた何とかってアイスもな…」
何で今そんな事言ってるんだろうと思った。
雅樹は安心させるつもりで言ってくれているのかもしれないのに不安ばかりが私を押しつぶそうとする。
「雅樹…?戻って来るよね?」
「当たり前だろ。お前こそ部屋から出るなよ」
小さく笑った雅樹はドアを開けた。
足を一歩踏み出して立ち止まると振り返らずに口を開いた。
「真子…卒業したら…一緒に暮らすか」
「え?」
「ここより広い部屋借りて…親父の会社だけど俺働くし…そしたらお前の玉子焼き…毎日食えるしな」
「…ん…うん」
雅樹は部屋を出て行った。
聞きなれたバイクの音はだんだんと離れていった。
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