『いつかの夏へ』
2
「いやだ…嫌だっ…」
私はベッドから下りた。
体中が痛くて下りた瞬間倒れた私を雅樹が慌てて抱き起こす。
「嫌だッ…行かないで…行かないで…」
抱き起こそうとする雅樹の腕にしがみついた。
ズルズルと体が床に落ちても雅樹の足元にしがみついた。
どうしてか分からないけれど離れたくなかった。
「真子。すぐ戻ってくるから待ってろ」
それはどんな言葉も拒絶しているような強い声だった。
私を見ているのにその瞳は本当に私を見ているのか不安で仕方がない。
そして足元で崩れる私を強く抱きかかえベッドへと連れ戻す。
「雅樹」
ドアの向こうからてっちゃんの声がした。
「あぁ」
雅樹が短く返事をするとドアが開いててっちゃんが入ってくる。
強張った顔をしている。
私には目もくれず部屋に立つ雅樹をジッと見ている。
「いいんだな?」
「あぁ…揃ったか?場所は」
「分かってる」
嫌な予感がする。
二人とも様子が普通じゃない。
「…雅樹?ねぇ…どこ行くの?」
雅樹の手を掴んで揺すっても何も答えてくれない。
私はてっちゃんの顔を見た。
無表情のてっちゃんは私の顔を一度も見てくれない。
「てっちゃん…てっちゃん…どこ……行くの?」
「雅樹、外で待ってる」
そのまま部屋を出て行った。
静かな部屋に残ったのは硬い表情の雅樹と何も出来ない弱い自分だけ。
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