『いつかの夏へ』
1
その日はとても静かな夜明けだった。
狭いアパートには二人だけで誰も邪魔するものもなくこの時間が永遠に続くものだと思っていた。
浅い眠りを何度も繰り返した。
外が明るくなりかけた頃まだ眠っている雅樹の顔をジッと見つめていると瞼が震えてその後ゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした雅樹の瞳が私を捉えて少し微笑む。
「ごめんね。起こしちゃった?」
雅樹は何も言わずに抱きしめた。
抱きしめて私の背中をさすってくれるのがまるで子守唄のようで私はまた眠りに落ちていく。
その日雅樹はバイトを休んで私のそばにいた。
「…あぁ、分かった」
ボソボソとした雅樹の声で眠りから覚める。
目を開けると雅樹はベッドにはおらず電話の前に座ってちょうど受話器を置いた所だった。
「…雅樹」
「起きたか?」
体を起こす私を支えるように背中に手を添える。
「ごめんね、寝ちゃってた…」
「気にするな。まだ寝てろ」
雅樹は私を抱きしめながら頭をポンポンと撫でた。
そしてギュッと抱きしめると立ち上がって着替え始めた。
「どっか行くの?」
「テツ達と出掛けて来る」
雅樹は着替えている間一度も私を見なかった。
私に背中を向けたまま着替えている。
嫌な感じがした。
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