『いつかの夏へ』
5
「真子ちゃん、み〜〜っけ!」
てっちゃんの声だった。
私は立ち上がると慌てて走り出した。
(見つかった、見つかった、見つかった…)
痛む足を引きずりながら走った。
「ちょ、ちょっと…真子ちゃん!」
てっちゃんの声が追いかけてくる。
私は砂に足を何度も取られながら走った。
「待ってよぉ!みんなで探してたんだよ?雅樹の奴すっごい怒っててさーー。はい、つーかまえった!」
後ろから腕を掴まれた。
その瞬間さっき味わった恐怖が体を駆け抜けた。
「キャァァァァッ!!」
大声で叫ぶと掴まれていた手がパッと離れた。
私は砂場につまずいて転んでも這ってその場から必死に逃げ出した。
手も膝もヒリヒリ痛いのに夢中で動かす。
「真子…ちゃん?真子ちゃん、真子ちゃん!ちょっと待ってって!」
てっちゃんが私の前に立ち塞がった。
「真子ちゃん、どーした…ッ」
しゃがんで私の顔を覗き込んだてっちゃんの顔が強張った。
自分がどんな顔をしているのか分からなかった。
ただてっちゃんは言葉を失ったまま長い時間私の事を見つめていた。
「…雅樹んトコ帰ろ?」
「帰…れな…い」
「ダメだよ。雅樹が心配してる。帰らなきゃダメだ」
いつもは明るいてっちゃんの強張った真剣な声に私は事の重大さを再認識させられた。
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