『いつかの夏へ』
4
どのくらい歩いたんだろう。
もう足の感覚はなくなりかけている。
家にも帰れず雅樹の元へも戻れず私は行く当てもなく歩いた。
もう逃げてしまいたい。
出来るのなら消えてしまいたい。
けれど周りの景色は少しずつ雅樹のアパートに近づいている事を教えている。
私は小さな公園を見つけるとベンチに腰掛けた。
足は自分の物じゃないみたいに重い。
降り続いていた雨も止んで空を見上げると雲が切れて星が瞬いている。
「これから…どうしよう…」
誰かに答えを出してもらえるわけじゃないのに呟いた。
(死ん…じゃおう…か…な)
ふいにそんな考えが頭をよぎった。
けれど私にはそんな勇気はどこにもない。
それにさっきから浮かんでは消える雅樹の顔がそれだけはさせてくれそうになかった。
「情けない…」
ヴォン!
「エッ!?」
近くで一台のバイクの音がした。
慌てて立ち上がった。
(雅樹だったら…)
でも雅樹のバイクの音じゃないのに気付いて慌てて上げた腰をまた下ろした。
「来てくれるわけ…ないのに…」
どんだけ自分勝手なんだろうと自分自身を笑いたくなった。
さっきのバイクの音が近くで止まった。
私には関係ないとぼんやりしていたが人影が真っ直ぐこっちに向かってくる。
私は体を強張らせた。
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