『いつかの夏へ』
2

 イライラしていた。

 そのイライラが暑さのせいだけじゃない事もよく分かっていた。

 ドンッ――

 部屋中に散らばっていた雑誌を集めるとワザと大きな音を立てて床に置いた。

 雅樹の体がビクンッと跳ねる。

 目を開けて部屋の中を見渡して私の事を見つけると体を起こした。

「…何やってんの?」

 その声は寝起きというにはあまりにも不機嫌な声だった。

 眉間に皺を寄せて睨んでいる。

「部屋の掃除」

「じゃねーだろっ!!俺にケンカ売ってんのかっ!!!」

 すごい勢いで怒鳴った。

 雅樹はたった今積み上げた雑誌を蹴り飛ばして一冊掴むと玄関のドアに向かって投げつけた。

 大きな音がしてドアが少しへこんだ。

「…そんな言い方…ひどいよ」

 涙が溢れ出た。

「うるせぇんだよっ!!」

「少しでも会いたいから来てるのに」

 寝ている雅樹を邪魔したのは私だっていうのは分かっている。

 けれど昂った感情は抑えられず心にしまっていた言葉が一気に溢れ出した。

「バイトが終わったらいつも走りに行っちゃうし、昼間は寝てるし、全然会えないから私バイトだって辞めるんだよ!」

「辞めろなんて頼んでねぇだろうがっ!!!」

「…ッ!!じゃ、じゃあ私だって好き勝手に遊ぶからねっ!」

「勝手にしろっ!」

「勝手にするもんっ!」

 私は持ってきた弁当箱を床に投げつけると部屋を飛び出した。

 外に出た私に日差しは痛いほど突き刺さる。

 空を見上げると真っ青な空に白い入道雲がいくつも浮かんでいた。

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