『いつかの夏へ』
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きっかけはくだらない事だった。
けれど私達はまだ若くて後悔という二文字の本当の意味をこの時はまだ知らなかった。
夏休みが始まってしばらくすると新しい単車を買うからと雅樹はバイトを始めた。
明け方から昼過ぎまで寝て午後からバイトへ夜は走りに出掛ける生活になった。
二人きりで過ごすのは走りに出掛けるまでの僅かな時間。
私は少しでも長く雅樹と一緒に居たくてバイトを辞めることにした。
友達は呆れたけれど今は雅樹と過ごす時間が何よりも大切だった。
バイト最終日、少し早めに出た私はお弁当を持って雅樹のアパートへ寄った。
鍵の掛かっていないドアを開けると散らかった部屋の中で寝転がっている雅樹を見つけた。
ベッドへ辿りつく前に眠ってしまったらしい。
「ちょっとは片付けたらいいのに…」
空き缶や雑誌が散らかる部屋は足の踏み場もない。
私は持ってきたお弁当を置いて片付けを始めた。
窓は開けっ放しになっているが部屋の中は蒸し暑くずっとつけっ放しの扇風機の風は生ぬるいだけだった。
額や背中にじっとりと汗が滲んでくる。
海とかプールに行きたいなぁ。
水着買って雅樹とバイクで海へ行ったりてっちゃん達と花火をしたり…。
夏休みになったらやりたい事はたくさんあった。
他の子みたいに映画館や水族館へデートに行きたいと思っていた。
汗ばむ肌に撒きあがった埃が付いて痒い。
まとわりつく熱気にだんだんとイライラしてきた。
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