『いつかの夏へ』
3

「おい…こいつの頭冷やしてやれ」

 雅樹は私の手を握ってくれた。

 血だらけになった男の子は抱えられるように連れて行かれる。

 ドラマや映画じゃない本物の大量の血を初めて見た。

「大丈夫か?怪我ないか?」

 雅樹は心配そうに顔を覗き込んだ。

 ギュッ――

 私は何も答えずに雅樹の背中に腕を回した。

 シャツを握って雅樹の胸に顔を埋めたまま動けなかった。

「今日は帰るか?」

 話しかける声がいつもよりも優しくて私は首を横に振った。

 すごくすごく怖かった。

 あの男の子も別人のような雅樹もすごく怖かった。

 それでも一緒にいたかった。

 どんな時も離れていたくなかった。


「ヨォッシ!そろそろ行くかー!」


 雅樹の一声で全員が一斉にエンジンをかける。


 爆音の中で私は雅樹の後ろに乗りしっかりとしがみついた。

 その日は空が明るくなるまでみんな走り続けた。

 アパートに戻って来てエンジンを切った雅樹は私を抱きしめてこう言った。

「俺なんかと居ていいのかよ」

 私は泣きながら何度も何度も頷いて離れたくないと呟いた。

 その日はバイトを休んだ。

 二人ともどうしても離れられなくて私達は夜になるまで抱きしめあっていた。



 流れるテールランプがキレイだった。

 しがみついた手を時々握ってくれるのが好きだった。

 誰よりも大切なあなたと一緒にいられる事が幸せだった。

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