『いつかの夏へ』
2

 声を出そうとしても口からは空気しか出てこない。

 私は必死に雅樹の姿を探した。

「真子さぁーーん」

 いきなり手を伸ばして私の手を掴む。

(嫌っっ…雅樹、雅樹!)

「真子ちゃんっ!!!」

 もうダメだと目を瞑るとてっちゃんの声が聞こえた。

「ッテメェェッッ!!!」

 続いて雅樹の怒鳴り声が響いたと思ったら掴まれた手が強く引かれすぐに離れた。

「真子ちゃん、大丈夫?」

 倒れそうになる私をてっちゃんが支えてくれた。

 顔を上げててっちゃんの顔を見るとホッとして膝の力が抜けてしまった。

「てっちゃ…」

「殺すぞっ!!!」

「ヒィィッ!すんません、すんません…」

 雅樹の唸るような怒鳴り声に言葉を飲み込んだ。

 さっきの男の子が雅樹に何発も蹴られている。

「てっちゃん、てっちゃん…もう…」

 私は震える手でてっちゃんの服を引っ張った。

 私の気持ちを汲み取ってくれたのかてっちゃんは小さく頷いてくれた。

「雅樹!雅樹!!もういいって。真子ちゃん大丈夫だから」

 てっちゃんの声に雅樹が蹴るのを止めた。

 まだ怒ってる怖い目で私を見る。

 怒りに染まるその目の奥に心配そうな色が見えて私は雅樹に向かって手を伸ばした。

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