『いつかの夏へ』
6
時計を見る事に夢中になっていた私は二人がかなり接近していたことに気付かなかった。
ただ握られた左手が熱い…と感じていた。
「真子の時計ちっこくて見にくいな?」
瀬戸くんは顔を上げた。
不意打ちで目の前にドアップが現れる。
「あ…っ」
こんなに近くで顔を見たのは初めて目が逸らせない。
暗闇の中でもあの真っ直ぐで強い瞳が時々スクリーンの光でキラキラ光る。
(どうしよう…)
心臓の音が大きくなって聞かれてしまうんじゃないかと思った。
「せ、瀬戸くん…」
(手を離して)
そう言うつもりだったのに言葉に出来なかった。
「シー…」
瀬戸くんは声を潜めながら私の頭を右手で押さえた。
二人は顔を寄せ合いながら身を屈ませる。
それはまるで何かから身を隠しているように感じた。
「どうしたの?」
「真子」
不安になって囁くような声で話しかけた私に答えたつもりなのか名前を呼ばれた。
そして名前を呼ばれた瞬間頭を押さえる手にグッと力が入った。
ビックリするような強い力に驚いていると唇に何かが触れた。
(エッ?何?)
唇に触れる温かい物。
まるで永遠にも感じられる長い時間。
その触れた物が瀬戸くんの唇で今されたのがキスだと気付いたのは唇が離れた後だった。
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