『いつかの夏へ』
5
久し振りに雅樹と言葉を交わした数日後。
二人の運命が大きく動き出す。
視聴覚室での英語の授業の時だった。
少し広めの階段教室でその日の予定は「風と共に去りぬ」を字幕版で鑑賞する事だった。
二人掛けの机に出席番号順に男女が一人ずつ座る。
隣には話した事もない男の子で映画が始まると皆は机に突っ伏して寝始めた。
(字幕読みづらいなぁ…)
私は中段辺りの席でスクリーンに映し出された映画をぼんやりと眺めていた。
だんだん退屈になってきて周りはもうほとんど夢の中で私もウトウトしかけた時だった。
「ねぇ…今何時?」
隣から話しかけられた。
眠くて答えるのが面倒で私は聞こえないフリをした。
「無視すんなよ。今何時?」
その声にハッとして横を向いた。
(何でいるの?)
私の隣はいつの間にか入れ替わって瀬戸くんが座っていた。
「え?あれ…どうして?」
「いーだろ。で…何時?」
(そんなに時間が知りたいのかな?)
不思議に思いながら左手の腕時計を見た。
けれど暗くて文字盤が見えず顔を近づけたがはっきりと時刻まで分からない。
「暗くて見えない」
「どれ、見せて?」
私の左手を引っ張った。
そして小さな文字盤を覗き込んで時にはスクリーンの光に当てて見たりしている。
「見える?」
私も近づいて二人で一つの腕時計を覗き込んだ。
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