『いつかの夏へ』
2
瀬戸くんが座った席の後ろは私の席。
壁にもたれながら私の机の上に手を乗せている。
(す、座りにくいんだけどなぁ…)
いつまでも教室の入り口に立っているわけにも行かずに妙にゆっくりした足取りで席に向かった。
「あれ?ここの席なの?」
机に鞄を置くと瀬戸くんは驚いた顔をした。
(嘘ッ…今頃??)
「し、知らなかったの?」
「おぉ」
確かに知らなくても当然かもしれない。
学校に来ていないか来ていても教室に居ないか居たとしても寝ている事が多い。
「ねぇ…なんでこんな早く来てんの?」
「テスト…だから。瀬戸くんは?」
言ってから気付いた。
名前を呼んだのはこの時が初めてだった。
「単車乗ってて気が付いたら朝だったからそのまま来ただけ」
まるで別の世界の話だった。
暴走族っていうのは噂ではなく三年になって現実になっていた。
「そうなんだ」
それっきり会話は続かなくなってしまった。
私はぎこちなく勉強道具を机の上に出したがどうしても進まない。
原因は分かっている。
目の前からずっと視線を感じる。
何とも思ってない相手でもこんな近くでジッと見られたら緊張するのに好意を持っている相手ならなおさらだ。
シャープペンを持っている手はまったく動かない。
(ど、どうしよう…トイレとかって立とうかな)
頭の中は極度の緊張でパニックしかけていた。
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