『いつかの夏へ』
19

「あの頃より……逞しくなった?」

 少年の頃の華奢な身体の面影は薄く、自分を覆うのは鍛えられた大人の男性。

 厚くなった胸板に指を這わせると雅樹の身体がわずかに震えた。

「あの頃より……大きくなった?」

 同じように雅樹に問いかけられ向けられた視線の先に真子は慌てて隠そうとしたがあっという間に絡め取られ頭上で一纏めにされてしまった。

 じっくりと観察するような雅樹の視線から逃げようと身体を揺するが逆効果だった。

 ゴクリと喉を鳴らす音は真子の耳にもハッキリ届いた。

「や、優しくしてね?」

 念を押す真子に笑いを噛み殺しながら素早くキスをした雅樹は安心させるつもりはないのか「多分な」と一言だけ言いさらに真子の不安を煽る。

 真子が二言目を口にする前に雅樹の大きな手が膨らみを覆った。

 片手で真子の手を押さえながら自分の身体をすぐ側に横たえた雅樹は、真子の表情を窺いながらようやく触れた手に柔らかく力を込めた。

「…………ッ」

 手の中で柔らかい膨らみが形を変えると二人は同時に息を呑んだ。

 恥ずかしくて視線を逸らそうとする真子だったが、雅樹の瞳に捕らえられた途端動かすことが出来なくなった。

「やっぱり……大きくなっただろ?」

「し、知らないっ」

「柔らかさは変わらないな」

 感心したように呟きながらワザとらしく大きく揉む仕草はとても愛撫とはいえない。

 まるで何かの観察日記でも付けるみたいに触っては感想を口にする雅樹にとうとう真子は口を尖らせた。

(こんなの……なんか違うっ)

 文句こそ言わなかったが真子の表情から気持ちを読み取った雅樹は手を止めると困ったような苦笑いを浮べた。

「怒ったのか?」

「べ、別に……」

「悪い、そんなつもりはなかったんだけど……」

 大きく息を吐き出した雅樹の身体が細かく震えていることに真子は気付かなかった。

 だが珍しく困惑の色を浮べる雅樹に真子は首を伸ばしてキスをした。

 不意打ちのキスに雅樹は驚いた顔をしたがようやくホッとしたように息を吐き、照れ隠しのつもりでふざけていたことは打ち明けず額に短いキスをした。

(思ってたより……ヤバイ)

 想像以上に余裕のない雅樹は熟れすぎた真子の身体を少しだけ恨めしく思った。

「雅樹……」

「なんだよ」

「ちゃんと、ちゃんと……エッチして?」

 真子にここまで言わせてしまったことに軽くショックを覚えた。

 雅樹は真子の身体を抱きしめると唇だけでなく頬や額に何度も何度も優しいキスを落とす。

「真子、いいな?」

 何度も確認する雅樹の言葉に真子は迷うことなく頷いて返した。

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