『いつかの夏へ』
17
「……んっ」
色々言っていた雅樹にベッドに下ろされた真子は、その口振りからは想像出来ないほど優しい仕草に胸を震わせた。
薄いパジャマ越しに触れる雅樹の手の熱さに眩暈がする。
それよりも熱い唇はすぐに真子の唇を奪った。
さっきの優しい仕草からは想像出来ないほどの激しいキス。
「んっ、ん……ちゅっ」
絡み合う舌が立てた淫らな音はダイレクトに鼓膜を刺激する。
まるで十年分のキスのように長い長いキス、何度も角度を変えては舌を絡ませる、息継ぎさえも許されないほど雅樹の荒々しいキス。
真子はキスの仕方を忘れてしまったようにただ雅樹にしがみつくだけで精一杯だった。
「真子……もっと、口開けろよ」
両頬を挟み込みわずかに離した唇で雅樹が囁く。
唇を動かすたびに触れ合う唇は火傷しそうなほど熱く、その熱を冷まそうと唇を開けばさらに熱い雅樹の舌が真子を翻弄する。
どのくらいキスをしていたのだろう。
長い、気が遠くなるほど長いキスを終えてようやく離れた唇からは乱れた呼吸。
雅樹は唇を離しても離れがたいとばかりに額を合わせ、何度も何度も名残惜しそうに唇を重ねては濡れて光る真子の唇を甘噛みする。
体を起こした雅樹はタバコに手を伸ばすと、蕩けそうなほど瞳を潤ませている真子に声を掛けた。
「脱げよ」
「……え」
「自分で……脱ぎたいっていつも言ってただろ」
「それは、だって……」
高校生の頃の話をされていることに真子はすぐに気がついた。
脱がされることに慣れていなかったあの頃、恥ずかしくていつも布団を被ってはゴソゴソと服を脱いでいた。
戸惑う真子の横顔を見ながら煙を吐き出した雅樹の口元が薄っすらと笑っているものの、その後の言葉には余裕のなさが感じられた。
「真子、早くしろよ。ホントお前は昔から焦らすのは得意だよな」
「ま……」
何か言いかけた真子だったが口を噤むと体を起こして、パジャマのボタンに指をかけた。
震える指でボタンを外し終えた真子はパジャマの合わせをきつくしながら、片手でパジャマのズボンを下ろし始めた。
(そんなにジッと見られたら……)
真子は顔を俯かせていたけれど雅樹の視線を感じていた。
脱いでいる間、雅樹は一言も話さずに時々聞こえるのは深く煙を吐き出す音。
久しぶりに雅樹の前に肌を晒した真子の緊張は最高潮に達した。
いくら隠そうと思っても何一つ纏っていない体をすべて覆うことは出来ず、胸を覆っていた手を片手に変えると足元で丸くなっている掛け布団に手を伸ばした。
「真子、手外せよ。見えないだろ?」
伸ばしかけた手を途中で掴まれハッと顔を上げると至近距離に迫っていた雅樹はいつのまにか鍛えられた裸身を露わにしていた。
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