『いつかの夏へ』
7
「わざわざ、ありがとう」
「そんなのは全然いいんだけど……」
日付が変わる頃、酔いつぶれた真子は夏に抱えられて帰って来た。
どれだけ飲んだのか意識がなくなるほど飲んだ真子をベッドに寝かせて戻って来た雅樹はリビングで待ち構えているはずの敵意剥き出しの夏を思い出し面倒臭そうに頭を掻いた。
(昔からホント……反りが合わないっつーか)
リビングに雅樹が姿を見せた途端、夏はソファからジッと視線を送っている。
挑むような瞳を真っ直ぐ向けられた雅樹は初めて夏と対面した時のことを思い出した。
真子の幼なじみだという夏は真子に初めて出来た彼氏を紹介され、最初は驚いた顔をしてそれからゆっくりと表情を歪ませていき相手にも聞こえる声でこう真子に耳打ちをした。
「この人が本当に彼氏?」
優等生の真子と見るからに不良の雅樹を不躾なほど交互に見比べた。
雅樹は慣れたもので何とも思わなかったが、真子は二人の間に立ち困ったように眉を八の字にしていた。
「こんなのがいいの?」
夏が思ったことをそのまま口にした時の真子の慌てぶりには雅樹は吹き出しそうになった。
ここまで明け透けと物を言う女が周りに居なかったせいか衝撃を受け、彼女にはしたくないが不思議と嫌いにはなれないタイプの女だと思った。
「こんなんだけどホントはすっごく優しいんだからっ! 私はすごく大好きなのっ!」
けれどそんな衝撃も真子が怒ったことに掻き消されてしまった。
こんなんだけどの言葉にムッときたものの、怒ってるせいか照れてるせいか顔を真っ赤にした真子が自分の前に立ち夏と対峙した時、雅樹は人目も気にせず思わず抱きしめそうになった。
そして夏は真子の勢いに気圧されたのかしばらく黙っていたがポツリと呟いた。
「真子が好きならいいと思う、うん。」
その時から雅樹は夏のことを真子の姉のような存在なんだろうな、少し面倒臭い相手だなと密かに思っていた。
そして十年経ってもそれはまったく変わっていなかった。
「あんた……エッチしてないんだって?」
(相変わらずだな……)
投げ掛けられた質問は直球というよりデッドボールに近い。
明け透けな物言いが何も変わっていないことに雅樹は懐かしさを感じたがその内容に不機嫌そうに片眉を吊り上げた。
真子も相変わらず夏には何でも打ち明けるのだという事実。
(これじゃまるで……小姑だな)
そんなことまで口出しされるのは堪らないとウンザリしてため息をつきかけた雅樹は夏にギロッと睨まれた。
「どういうつもり!?」
「…………」
「真子と結婚する気はあるの?」
「当然だ」
「じゃあどうして? あの頃は真子のことなんてお構いなしで押し倒してたアンタがしないなんて……」
(真子は何でもかんでも話しすぎだな……)
夏の口から出た言葉に雅樹は今度こそ深く深くため息をこぼした。
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