『拍手小説』
も3-4
「なんか意外だな……」
「何が?」
「お前って鍋とか食べに行くの好きじゃないっぽいから」
「そうだね。好きじゃない」
「はぁ!?」
悠斗は鍋をつついていた箸を止めて顔を上げた。
向かい側には響が座っている。
他に連れはいないという珍しい組合せの二人は向かい合わせに座りもつ鍋をつついていた。
「じゃあ、何で声掛けたんだよ」
「なんとなく」
昨日、店が終わった後に「もつ鍋」が食べたいと話していた悠斗は「じゃあ明日行く?」と響に声を掛けられてノリで「行く」と返事をした。
そう、まさか二人きりとは思ってなかったわけで。
「お前ってほんとよく分かんない」
「何が?」
「ホストなのに実家通いだしホストなのに難しい本読んでるしホストなのに……」
「ねぇ、それホスト関係あるの?」
淡々とした口調の響に突っ込まれた悠斗は相変わらずだなとムッとする。
盛り上げ役ムードメーカーの悠斗、その存在自体が華になる陸、落ち着いた雰囲気が魅力の誠、オンとオフとの違いはそれぞれあるけれどホストという雰囲気はいつでもある。
けれど響だけは少し違っている。
店の中では接客姿も可愛いシャイなイメージだが実際の響は終始こんな感じ、無口で無表情であまり自分から話をしないけれど付き合いが悪いわけじゃない。
「……ところで、何で二人なんだ?」
「他人と鍋をつつくのは好きじゃない」
そう言いながら二人は直箸で鍋をつつきちょうどタイミングよく二人とも鍋に箸を入れている時のこのセリフに悠斗は怪訝な顔で響を見た。
「言ってることおかしくね?」
「お前なら気にならない」
「…………」
響の言葉に瞠目した悠斗はそろそろと手を引いて視線を泳がせた。
「言っておくけど俺はノーマルだから」
何を考えていたのか読まれてしまった悠斗はギクッとしながら乾いた笑いをして誤魔化す。
それから特に会話が盛り上がるわけでもなく二人は黙々とモツを口に運んでいるとおもむろに響が口を開く。
「お前といると気を使わなくていい」
「は?」
「会話をしなくてもお前は嫌な顔しないから」
「…………」
いつになく饒舌な響に少し驚いたがそれよりもこんな風に思っている響が意外で悠斗は言葉を失う。
そしていつも盛り上げなくてはと思う悠斗だったが響といる時はなぜか自分も気を使わずに素でいられていることに気付いた。
「お前って分かりにくい」
「別にみんなに分かってもらおうと思ってないから」
相変わらず淡々な口調。
でも悠斗は少し嬉しくなって曇ったメガネを拭く響を見た。
「大須は豚キムがあるらしいけどお前辛いの平気?」
「いいよ」
メガネを拭き終わった響は顔も上げずに返事を返す。
秋の夜長、もつ鍋をつつきながら心も体も温かくなった二人でした。
end
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