『拍手小説』
も2-4
新しくオープンしたイタリアレストラン。
緑豊かなガーデンに面し秋の穏やかな陽光が燦々と降り注ぐサンルームのような店内。
真新しい椅子とテーブル、イタリアらしい店内の装飾品が壁を彩っている。
ランチタイムで混み合う店内、六人掛けのテーブルに座る二組の家族連れがいる。
父、母、息子と並び向かい合うように座る二家族は大人四人で会話を弾ませていた。
二人の息子は対照的な表情をしていた。
スッと鼻筋の通った精悍な顔つきの黒髪の方は穏やかな微笑みを浮かべている。
けれどもう一人は仏頂面をしているが、周りの目にはそれほど仏頂面に映らないのは愛らしい大きな猫目のせいだという事に本人だけが気付いていない。
「あ〜ぁ…これなら牛丼食べに行った方が良かった」
小分けにされたパスタをフォークに巻き付けていた祐二がまたぼやいた。
持ち上げたフォークの先には5センチほどのパスタの玉が出来ている。
(なんで…同じようにやってんのに!)
目の前に座る貴俊も同じようにフォークをクルクル回しているのに必ず一口大より大きくなることはない。
口元を汚すことなくパスタを口に運んでいる。
「俺は…日本人だ! くそっ」
文句を言いながらパスタの玉を口に押し込んだ。
許容量を超えているそれは当然のように祐二の口をトマトソースで汚しながら口の中へと消えていく。
まるでリスのように頬をパンパンに膨らませながら咀嚼すると何とか飲み込んだ。
「ちゃんと噛まないと消化に悪いよ」
それを見ていた貴俊がすかさず口を挟んだが祐二はまったく気にせずに次のパスタの玉を作る為にフォークを回し始めた。
「祐二、箸もあるよ? 使ったら?」
「いい!」
割り箸を差し出されると余計に腹が立って乱暴にフォークを回した。
ムキになっているのが分かって貴俊は目を細める。
「ほら…口の周りにたくさん付いてるよ」
貴俊は紙ナプキンを手にすると祐二の口の周りについたソースを拭き始めた。
祐二もまた当然のように顔を少し前に出して貴俊に拭いて貰っている。
(俺だって貴俊みたいにカッコよく食えるんだからな)
祐二の意識はどうやったらパスタをカッコよく食べられるかに集中していた。
だから近くにいた若い女の子のグループが二人の姿を見ながら会話を弾ませていたことに気付く事はなかった。
「貴俊、水」
空になったグラスを見て祐二が口を開けば貴俊がピッチャーから水を注ぐ。
「祐二、エビ食べる?」
貴俊はペスカトーレに入っていたエビをフォークに刺して差し出した。
ん?と顔を上げた祐二は「食う」と短く返事をして口を開けた。
きゃぁっ!と近くのテーブルから声が上がったがまさか自分達がその対象だとは思いもしない祐二は再びパスタを巻く事に集中した。
そんな可愛い恋人の姿を目の当たりにした貴俊は幸せで満たされていた。
end
―44―
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