『拍手小説』
も2-3

 新しくオープンしたイタリアレストラン。

 緑豊かなガーデンに面し秋の穏やかな陽光が燦々と降り注ぐサンルームのような店内。

 真新しい椅子とテーブル、イタリアらしい店内の装飾品が壁を彩っている。

 ランチタイムで混み合う店内、一番奥の窓際の席に座る一組のカップル。

 向かい合うようにして座る男の方は不機嫌なのか仏頂面で窓の外を眺めていた。

「イタリアン嫌い…だったの?」

「そうじゃない」

 和真は短く答えた。

 不機嫌な理由が分からなくてかのこは途方に暮れていた。

 何が食べたいと聞かれたから新しく出来たこのお店に行きたいと言ったのがまずかったのだろうか…と落ち込んだ。

「ランチのスープとサラダです」

 店内は賑やかで笑顔が溢れているのにこのテーブルだけはまるで通夜のように暗く店員は思わずジロジロと二人を眺めてしまった。

 視線に気付いた和真が眉間に皺を寄せて睨むと店員は頭を下げて慌てて下がった。

(はぁ…何で怒ってるんだろう)

 眉間に皺を寄せた和真を見てもう泣きそうだった。

「どうした…食べないのか?」

「あ…うん。食べる…」

 せっかくのランチなのになんか急に食欲がなくなってしまった。

 それでもカトラリーの入る木のカゴに手を伸ばそうとすると目の前にフォークが差し出された。

 和真がフォークを取り出してかのこに渡そうとしている。

「ありがとう」

「かのこ、別に俺は怒ってるわけじゃない。そんな顔するな」

「じゃあ…どうして?」

「………」

 珍しく和真は気まずそうな顔をして視線を逸らした。

 怒っていないのならどうしてだろう…なかなか教えてくれない和真だったがようやくその理由を聞かされたかのこは思わずフォークを落としそうになるほど驚いた。

「俺が連れて行く店よりも嬉しそうな顔をしている。お前が喜びそうな店を選んでいたつもりだったから少しショックを受けただけだ」

(そんなこと…)

 和真はとんでもない誤解をしていた。

「ち、違うの! いつも連れてってくれるお店はほんとすごく美味しくて嬉しいんだけど…高そうなお店の雰囲気に慣れなくて緊張しちゃって…マナーとかよく分からないし、どのお店も和真はすごい歓迎されてて…恥かかせたらいけないって…」

 かのこは早口で自分の伝えたい事を吐き出した。

 一瞬呆気に取られていた和真だったが店に入ってようやく口元を緩ませた。

「そんな事気にするな、言いたい奴には言わせておけばいい。美味しいと笑って食べるのが一番のマナーだと俺は思うけどな」

「あ…うん」

「ほら、食うぞ。それにしてもどうしてこの店だったんだ?」

 和真の言葉で鬱々とした気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまった。

 笑みが体の奥からにじみ出て来るのを感じながらかのこは鞄の中から紙切れを取り出した。

「これ! 10%オフになるの!」

 かのこが取り出したのは小さく折られたB4サイズのチラシ。

 それを見た和真は思わず苦笑いを浮かべた。

end

―43―
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