『拍手小説』
も1-5
『ありがとう』
四日間続いたBDイベントを終えた陸は麻衣にせがまれてある場所へ向かっていた。
夏の日差しを避ける為に日傘を差した麻衣は赤いカーネーションを抱えていた。
陸は手に水の入った手桶を持っている。
昼頃目を覚ました陸に麻衣が突然切り出した。
「お墓参り行こうよ!」
来月のお盆の時でいいよという陸に麻衣はどうしても今日がいいと言って譲らなかった。
二人は間隔の狭い石段を黙々と登っていた。
「ふぅ…久しぶりだな」
中塚家と書かれた墓石の前に立つと陸はジッと見つめた。
それから二人は墓石を磨き周りを掃除して持って来た花を挿した。
来る途中寄った花屋で陸は迷わず赤色のカーネーションを選んだ。
「母さんの好きな花なんだ」
そう言った陸は懐かしそうな顔で花を見ていた。
陸は線香に火を点けると麻衣の手を握って墓の前に立った。
「親父、母さん。遅くなったけど俺の奥さんになる麻衣だよ」
「初めまして麻衣です。不束者ですが宜しくお願いします」
麻衣は深々と頭を下げた。
その姿に陸は穏やかな微笑みを浮かべた。
「向こうで俺の事心配してたかもしれないけどさ…もう安心して二人で仲良くしてなよ。俺も親父みたいに麻衣の事を大切にするよ。母さん…麻衣はすげぇ料理が上手なんだ。母さん生きてたらきっと出番なんかないよ」
陸は優しい声で墓石に向かって語りかけた。
二人は手を合わせてお参りを済ませると来た道を手を繋いで歩く。
「麻衣、ありがとうね。言ってくれなかったらずっと来なかったかもな」
「ううん。陸のご両親に「産んでくれてありがとう」って言いたかったの。そうじゃなきゃ出会えなかったものね」
「そうか…そうだな。それなら…ホストやってて麻衣と出会えたのは親が死んだおかげか?」
「…それは違うと思うよ」
二人はクスクス笑った。
車に着いてエンジンを掛けると熱のこもった車内に乗り込んだ。
フロントから髪がなびくほどの冷風が熱い車内を冷やしていく。
「また一緒に来てくれる?」
「もちろん!今度はお盆にね!」
麻衣はタオルで額を拭きながら清清しい笑顔で陸を見た。
ありがとう…
陸は心の中でもう一度感謝の言葉を呟いた。
end
―39―
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