『拍手小説』
も1-3

『息子』


「はぁ〜っ。やっぱりすごい…」

 麻衣はリビングに並べられた色とりどりの包みを見てため息を吐いた。

 食事を終えた陸は客からの誕生日プレゼントを開けている。

「んーこんなにお金使ってくれなくてもいいんだけどね?」

 陸は開けた包みの中の腕時計に苦笑いを浮かべる。

 麻衣が見てもその時計は一万や二万で買えるようなものではなかった。

「そういえば昨日お父ちゃんお店に行かなかった?」

 麻衣は急に思い出したように切り出した。

 陸もハッとして顔を上げる。

「来てくれたよ〜!忙しくてろくに話も出来なくて…後で謝らないとなぁ…」

「気にしてないって!それとこれお店に行く前にプレゼント置いてってくれたよ?てっきり店で渡すのかと思ってたのに」

 麻衣はリボンの掛けられた箱を陸に渡した。

「プレゼントォ!?」

「どうしたの?」

「だって竜さん…店に来てお祝いだとか言って全員にピンク振舞ってくれたのに…」

「まーた派手な事を…」

 麻衣はハァと溜め息を吐いて額に手を当てた。

 陸は早速プレゼントの包みを開けた。

 箱の中からはZENITHと刻印された箱が二つ出て来た。

「時計だ…あ…こっちは麻衣のだよ」

 二人は箱を開けると顔を見合わせた。

 麻衣は慌てて携帯を掴んで電話を掛ける。

「もしもし?お父ちゃん?陸へのプレゼントのこれって…」

「なんだぁ?騒々しいな。陸がいるなら代わってくれ」

 麻衣は携帯を陸に差し出した。

 陸は「俺?」と確認しながら姿勢を正して携帯を受け取った。

「昨夜はありがとうございました。お礼もろくに言えなくてすみませんでした」

「…んな堅苦しい事言うなよ。No.1のイベントは派手にやるくらいでちょうどいいんだよ」

「ハハ…。えっと…今頂いた時計見たんですけど…こんな高価な物…」

「美紀がそれがいいだろうって。あいつの目利きは確かだろ?それとも気に入らなかったのか?」

「と、とんでもないです!すごく気に入りました!」

 陸がアタフタしているのを麻衣は心配そうに見ながら手元にある時計に視線を落とす。

 陸のはクロノマスターオープングランドデイド、麻衣のは薄いピンクのスターオープン。

 麻衣には金額は分からないが高価な物という事だけは分かった。

「はい。えぇ…また伺います。はい…失礼します」

「陸?お父ちゃん何て?」

 陸は目に涙を滲ませていた。

 心配になった麻衣は陸の顔を覗き込んだ。

「やべ…俺泣きそう…」

 陸は泣き顔を見られないように麻衣を抱きしめて肩に顔を埋めた。

 微かな震えが麻衣の体にも伝わってきて麻衣は背中に手を回して撫でた。

 陸は頭の中で何度も何度も竜の言葉を思い出していた。

「息子になった陸に22回分のプレゼントだ。お前の両親ほど出来た親じゃねぇだろうけど助けるくらいは出来るから困った事があったら言って来いよ」

 麻衣は肩がじわっと温かくなるのを感じた。

 声を掛ける事も出来ずにポンポンと背中を叩いた。

「麻衣…ありがとね。麻衣と出会えて俺すげぇ幸せだよ」

 陸は抱きしめる手に力を入れた。


end

―37―
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