『拍手小説』
【和真&かのこ】
(今日はやたら手を繋いでるカップルが目についたなぁ)
週末は和真のマンションで過ごす、それがいつものことだけれど今日はどうしても外せない用があるとかで、昼間は久々に弟の明利と買い物へ出掛けた。
出掛けた先のショッピングセンターをプラプラしながら、仲良さそうな恋人達ばかりに目がいってしまったのは、会えない寂しさからかもしれない。
(私もたまには繋ぎたいなぁ)
和真とのデートは移動は車、あてもなくプラプラするということもない、テーマパークどころか遊園地すらなく、手を繋ぐタイミングがなかなかなかった。
「おい、考え事とは……随分と余裕だな」
聞こえてきた声にハッとした時にはもう遅い、上から見下ろす和真の瞳がこれ以上ないほど不機嫌になっている。
会えないと思っていたかのこの電話に連絡があったのは夕方のこと、明利と夕飯は実家にするか外食にするか悩んでいた時だった。
二つ返事で和真の迎えをオッケーしたかのこは明利に最後の最後まで文句を言われても気にならなかった。
たまにしか会えない明利には悪いとは思ったけれど、好きな人と過ごす時間は大切にしたい。
そう……大切にしたいと思っているのに、よりによってこんな時に他事を考えていて、おまけにそれを相手に知られてしまった。
「今さら遅いぞ、かのこ」
その言葉の意味を考える猶予はなかった。
強い衝撃が体を貫き、仰け反って息を詰めたかのこは覆い被さってきた和真の顔を見た。
いつもはオールバックにしている前髪を下ろし、その奥から向けられる冷ややかな視線が意地悪なものに変わる。
「明日は仕事だしほどほどにしておいてやるつもりだったが、覚悟しろよ」
「やっ……待っ……」
「待つ? 寝言か?」
喉の奥で笑った和真が顔のそばに手を付いたと思ったら、いきなり激しく突き上げられて悲鳴を上げた。
(怒ってるっていうか、これってもしかしたら……)
「か……和真っ、もしかして……拗ねてる?」
「なに?」
「な、なんでもないっ!」
眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌と顔に書いてある和真に慌てて首を横に振った。
「や……っ、あ……んぅ」
「話をする余裕があるとは、物足りないらしいな」
「ちっ違……ああっ、んんっ」
激しい荒波に翻弄されて甘い快感に呑み込まれれば、意識も体もどこかへ飛ばされてしまいそうになる。
次第に蕩けていく意識の中で和真の顔を見上げてやっぱりそうだと思った。
(拗ねてるんだ。絶対認めないと思うけど……)
いつもの余裕のある顔とは少し違う、こんなに早くから息を乱して獣が貪るみたいで、見下ろす瞳がギラギラしている。
(でも……なんか、嬉しい)
二人の将来に不安がないと言えば嘘になるけれど、和真の気持ちに不安を感じたりはしない。
和真しか知らないけれどこんな風にすべてをぶつけるように愛してくれるのだから彼をずっと信じていればいい。
「かのこ、俺だけ見てろ」
熱っぽく囁いた和真の手がシーツを掴むかのこの手に触れた。
きつく掴んだ指はするりと解けて、代わりに和真の手に強く握りしめられる。
「和真、和真和真……」
うわ言のように何度も名前を呼ぶ唇を優しいキスで塞がれるともう何も考えられなくなっていった。
end
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