『拍手小説』
【貴俊×祐二】
「危ないっ!!」
貴俊の声が鼓膜を突いたと思った瞬間、体が強く引っ張られた祐二は足をもつれさせながら貴俊の胸元へと倒れこんだ。
「何す……っ!!」
反射的に叫んだ祐二だったが、車の通り過ぎる音に振り返るとたった今自分が立っていた場所を車が通っていくのを見た。
(あ……もしかして)
恐る恐る顔を上げた祐二は貴俊がホッと息を吐いたのを見て唇を噛んだ。
幼い頃からそれこそ物心付いた頃から貴俊は側にいる、だから休日に一緒にいることもいつの間にか当たり前になっていた。
でも……二人の関係が今までの「幼馴染」というものから変わってしまった今、貴俊の優しさに触れるたびに歯痒くて仕方ない。
(俺は女じゃねぇ……っての)
「もう離せよ」
貴俊の胸を押し返して一歩下がった祐二は繋がれたままの手を睨み付けて低く唸った。
「手を離せ」
「大丈夫、誰もいないし」
握っていた手をさらにしっかりと繋ぎ直した貴俊はいつものように車道側に立って歩き出す。
「そういう問題じゃねぇっ! 男同士で手を繋ぐなんておかしいだろっ!」
「なんで? 昔はよく手を繋いでたのに」
何でないようなことのようにサラリと言われ、祐二はこれならどうだと言わんばかりに繋いだ手に力を込めた。
持てる握力すべてを注ぎ込んだにも関わらず、貴俊は悲鳴を上げるどころか嬉しそうに声を上げて笑った。
「嬉しいな。積極的な祐二にドキドキしてきたよ」
「気持ち悪いこと言うなっ! この変態ッ!!」
「大丈夫。ドキドキしてるだけ、それ以上のことは帰ってからにするよ」
「そ……それ以上って何だよ、それ以上って!」
「やだなぁ、祐二。こんなとこで俺に言わせたいの?」
「はあ? ……っていうか、手離せ! バカッ!!」
「デートの帰り道なんだからこれくらい普通……」
「デェェェトォォォ!? 誰と誰がっ!?」
「俺と祐二」
「ど、どこがデートなんだよっ!」
「朝10時まだ寝てる祐二をキスして起こしてあげて、それから電車に乗って映画を見に行って、お昼はハンバーガー食べたけど足りないからって俺のポテトまで食べて、戻って来てDVDを借りて今から俺の部屋で見るんでしょ? もちろんその為にお菓子も買ったしこれからは二人きりで……って祐二?」
貴俊の言うことは何一つ間違っていないし、休日はいつもこんな感じなのに、なぜだか貴俊の口から聞くと不愉快で仕方ない。
みるみるうちにしかめっ面になりながら祐二は何とか言い返せないかと頭を捻る。
(くそ……だいたい、俺がコイツに口で敵うわけないんだよなぁ)
「あ、祐二」
「ああ? 何だよ!?」
「結局、手を繋いだまま家に帰って来れたよ」
(いつの間に……)
怒鳴り返したくてもあまりに嬉しそうに笑う貴俊に毒気を抜かれる。
「ったく……お前ってホント変な奴」
「そうかな」
まったく気にしていない貴俊に再び手を引かれた祐二はもうその手を振り解こうとはしなかった。
end
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