『拍手小説』
【貴俊×祐二のオマケ】
満腹感と窓越しの心地良い陽射し、それに加え静かな車の揺れが瞼を重くする。
前方で繰り広げられる賑やかなお喋りも、今はまるで子守唄みたいだ。
貴俊は眠気で下りてくる瞼を何とか持ち上げるものの、本人の意志とは反対に瞼はすぐに下りてきていた。
(ああ……眠い、このまま寝ようかな。でも、せっかく祐二が隣に座ってくれているのにな)
隣に座る祐二に目をやれば、さっきと変わらない姿勢で携帯をいじっている。
視線だけを動かし携帯の画面を覗き込む、小さな画面上ではゲームのキャラクターが動いた。
最近お気に入りの携帯ゲームだということにホッとする貴俊にさらに眠気が襲い掛かる。
「眠いなら、寝ろよ」
「んー」
携帯から顔を上げた祐二に声を掛けられても、すでに曖昧な返事を返すことしか出来ない。
(でも……寝ちゃうのはもったいないんだけど……)
「着いたら起こしてやるから。寝とけって」
祐二の言葉に一瞬だけざわついた胸の奥、それもひどい眠気に負けてすぐに曖昧なものになった。
いつもの邪険な態度に慣れているせいか、その言葉の裏を読もうとしてしまう、今も素直に言葉通りには受け取れず、起きていると邪魔だからではないかと考えてしまった。
(やっぱり、寝よう……。なんか……今は色々……考えられないし)
「……から、…………か……よ」
自分では制御出来ないほど混濁した意識の中で、祐二の声を聞いたような気がしたけれど、聞き直すことも出来ないまま意識を手放した。
(なんか、あったかい……)
貴俊はゆっくりと引き上げられる意識の中で、自分の半身が温かくなっていることに気が付いた。
不自然なほど傾けた首に痛みを覚えると、おぼろげだった意識はすぐにクリアになった。
「あ……れ?」
目を開けて飛び込んできた窓の外の景色は動いていない、相変わらず暖かい陽射しが降り注いでいるが周りの車は整然と停まっていた。
「起きたんなら、頭どけろよ。重いっつーの」
「……へ?」
顔のすぐ側で聞こえて来る祐二の声に、ようやく自分の頭が祐二の肩に乗っていることに気が付いた。
「あれ、ここ……は?」
「途中のサービスエリア」
ぶっきらぼうな祐二の声を聞きながら、固まって痛む首筋を労わりながら身体を起こす。
(かなり寝てしまった)
自分の記憶にある場所から見覚えのあるサービスエリアはかなり離れていて、車が停まったことにも気が付かないほど熟睡していたらしい。
「ったく……お前のせいで折角のサービスエリアも降りられなかった!」
元々、長時間ジッとしていることが苦手な祐二は、家族で遠出の車でも学校の遠足のバスでも停まると真っ先に降りていた。
「あ、ごめん」
ぼんやりする頭で条件反射のように謝罪を口にする貴俊は小さくアクビをしたが、目の前で微妙な顔をしている祐二に小さな違和感を感じた。
「べ……別に、食いもんは頼んだから降りなくてもいいんだけど、よ……」
(あれ? そんなに怒ってないのかな、それに……サービスエリアで買い食いするのが好きな祐二なら俺のことなんて放って真っ先に……)
小さな違和感が少しずつ大きくなっていくにつれ、胸の奥にしまっておくことの出来ない感情が顔に出てしまう。
「な、何……ニヤニヤしてんだよ! 気持ち悪いんだよっ!」
「祐二、抱きしめていい?」
「ハアッ!? ふざけんなっ!」
「どうしよう、今すぐキスがしたくなった」
「ふざけ……っ、バ、バカ! 押し倒してんじゃ、おいっ……聞けって、貴俊っ!」
車のシートになだれ込むように祐二を押し倒し、激しく抵抗する手を拘束して顔を覗き込んだ。
大きな黒目がいつになく勝気なのに、触れなくても分かるほど熱くなっている祐二の顔のせいか、まるで誘っているように見える。
(ああ……本当に早く免許を取ろう)
家族がいつ戻ってくるか分からないこの状況で、頭の中では「マズイ」と思いながらも少しも抑えることは出来なかった。
最初は耳たぶへそれから頬へ、唇から伝わる肌の熱さは伝染して、自分の身体の熱を上げる。
「祐二……抵抗しないで。みんなが戻ってくる前に……ね?」
宥めるように重ねた唇の熱さに触れるだけにしよう、そう思っていたのになけなしの理性はあっという間に溶けていく。
何かを言いかけて開いた祐二の唇の隙間から舌を滑り込ませると、さらに熱い舌が追い出そうと硬くなって待っていた。
「ん……ぅ」
力んだ舌を宥めるように撫でていくうち、最初に掴まえていた手から力が抜けていった。
(可愛くて止めてあげられない)
拘束を解いた貴俊はその手で柔らかい祐二の髪を梳き、小さな抵抗を見せそむけようととする顔を固定させた。
「んぅ……っ、んっ」
硬くなっていた舌が柔らかくなり、まるで対の生き物のように差し入れた舌の動きに同調する。
何度も顔の角度を変え、舌を浅く深く差し入れて、漏れる喘ぎ声も吸い取った。
「も……た……、っし」
(このまま離れたくないけど……)
こんなところを家族に見られるわけにはいかず、仕方なく唇を離した貴俊はすぐに濡れた瞳を怒らせた祐二と目が合った。
「どこでも盛ってんじゃねぇ! 早くどけ……んっ」
名残惜しくてもう一度だけと重ねた唇で祐二の言葉尻を掬い取る。
濡れた短い音の後に離れた唇でにっこり笑みを作り、への字に唇を曲げた祐二の身体から離れた。
「ずっと寝てろ、バーーーカ!」
身体を起こしながら祐二が悪態を吐いた時、フロントガラスの向こうの方にちょうど家族の姿が見えて来た。
(また寝たら……肩、貸してくれるのかな)
貴俊は眠る前におぼろげに聞こえてきた祐二の言葉を思い出していた。
『寝にくかったら、もたれてもいいからよ』
自分なら膝を貸すのにと思いながら、いつか免許が取れて車を運転する自分に想いを馳せた。
end
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