『拍手小説』
【貴俊×祐二】
学校帰りに日和と遊んだ帰り道、すっかり遅くなり電車を降りると祐二が小さくクシャミをした。
「うぅ……さみぃ」
首を竦ませる祐二は両手をポケットに入れて歩き出した。
「手袋はないけど……」
俺は首に巻いていたマフラーを祐二の首に巻きつけた。
今夜あたりからかなり冷え込むと聞いて用意していたマフラーが役に立って良かった。
「いらねぇって」
祐二は乱暴に剥ぎ取って突き返してきた。
まぁ……素直に受け取ってくれるとは思っていなかったけど……。
予想通りの行動に動揺することもなく断って祐二の首に掛けようとすると、今度はかなり強く手を振りほどくように拒まれた。
「祐二?」
「お前がしろって!」
「俺は大丈夫だから……」
「バカは風邪ひかねぇんだよ!」
いつになく珍しい言葉に首を傾げると祐二はマフラーの両端を握ってフワッと浮かせた。
首にそれが落ちてくるとそのままグイッと引っ張られる。
「ゆ、祐二……何……」
「鼻声のくせにお前の方が風邪ひくっつってんの!」
祐二は早口で捲し立てるとパッと手を離してスタスタと歩き始めた。
街灯に照らし出される祐二の横顔がほんのり染まっている。
「祐二……気付いてたんだ」
「べ、別に……毎日チェックしてるとかじゃねぇからな。た……たまたまだ、たまたまっ!」
「どうしよう……すごく嬉しい」
本当に嬉しくて同じマフラーのはずなのにさっきよりもすごく暖かい。
マフラーを巻き直して祐二の横に並んで歩き出す。
沈黙さえも嬉しくて黙って歩いて住宅街の方へ折れると祐二がボソッと呟いた。
「手……冷たい」
気が付けばいつの間にかポケットから出ていた手が隣で揺れている。
家まであと五分。
車の通りも街灯も少なくなった道で黙って手に触れれば、その手はとても温かい。
でも何も言わずそのまま握りしめると遠慮がちに握り返された。
家がもう少し遠かったらいいのにな。
そう思ったらどうしても我慢できなくて玉砕覚悟で口に出してみた。
「こっちの道……行ってもいい?」
いつも右に曲がる角で真っ直ぐ指を差す。
ムッとした顔で俺を見上げる祐二に素直に右に曲がろうとすると真っ直ぐ進む祐二に手を引かれる。
「お前なんか風邪引けばいいんだ」
冷たい言葉なのにすごく嬉しくて。
風邪引いたら心配してくれるかななんて考えてみたけれど、いつもよりも熱い祐二の手が風邪菌を追い出してしまいそうだ。
end
―120―
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