『拍手小説』
【雅樹&真子】

「完成ーーーーー!」

 一仕事終えたとばかりに真子は腰に手を当てて満足そうに頷いた。

 お洒落なマンションのリビングの真ん中にはモコモコと温かそうなコタツ。

 これがないとと中央には最後に置いたみかんの入ったカゴ。

「この部屋には合わなくないか?」

「なんで! 日本人はコタツでしょ、コ・タ・ツ!」

「さて……とりあえずぅ」

 真子はゴソゴソとコタツに入ると立っている俺を振り返った。

「ごめん雅樹、コンセント入れて?」

「自分で入れろよ」

 文句を言いつつもコンセントを差し込んでやると真子は少し経ってから「ほぉ〜っ」ため息をついた。

「あったかーーーい。ほら、雅樹もー!」

 おいでおいでと手招きされ、角を挟んだ隣に腰を下ろした。

 足を入れればジンワリとした温かさが足に伝わってくる。

「そう言えば……コタツなんてすげぇ久しぶり」

 アメリカ暮らしが長かったせいで、日本の冬らしいことからかなり遠ざかっていた。

 真子の言う通りいいもんだなと思っていると足にドンッと何かが当たった。

「あ……雅樹の足? ごめんねー」

 悪いと思っていない口調で謝る真子はゴソゴソとコタツに身体を潜り込ませている。

「お前、ここで寝る気か?」

「寝ないけど、ちょっとぬくぬくするだけ」

「ダメだ。風邪引いたらどーすんだ。さっさと出ろっ!」

「やだっ、ちょっとだけ!」

「ダメだっつてんだろうが。今すぐ出ないとコタツ返品するぞ」

 ビシッと言ってやると大人しくコタツから身体を出して座り直した。

 もっと体調に気を付けろっつーのに……。

 やれやれとため息を吐いていると真子が小さく身体を震わせた。

「どうした?」

「外出たら寒い……かも」

「だから言っただろうが、このバカが」

「だってぇ……」

 ブツブツと文句を言う真子に呆れつつ、それなら……と一旦コタツから出た。

「ほら……これならどうだ?」

「んふふ……温かいね」

 後ろから抱きしめてコタツに入れば、真子が嬉しそうに身体を預ける。

 後ろから伸ばした手で労わるように撫でていると真子がその上に手を重ねた。

「来年は……もう二人じゃないんだな」

 そう呟くと真子はクスクスと笑って俺を見上げた。

「二人の間にいっぱい恋人らしいことしなくちゃ! クリスマスはお洒落なレストランで食事して、夜景の綺麗なバーでロマンチックに過ごして、締めはホテルのスイート!」

「今からじゃ無理」

「えーーー?」

「それに……腹に二人も入れてんのに、ホテルのスイートはねぇだろ」

 真子はそれもそっかと笑うと小さな声で呟いた。

「チキンは三人分食べなきゃダメよね」

 真剣な表情でそう言う真子に思わず吹き出して、一体どれだけのチキンを買ってこようかと頭を悩ませる。

 今は静かなこのリビングが賑やかになるのもそう遠くない。

end
―119―
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