『拍手小説』
4
さて、一通り自己紹介は終わったが同時に会話も行き詰ってしまう。
「おーい。もう帰っていいのか?」
――意外に盛り上がらなかったようだな。
「盛り上がると思ってたことに驚きだっつーの」
確かに陸の言う通りだった。
共通点も何もない五人ではこれといって盛り上がれる話題はない。
――それでは「夏」をお題に何か話すというのはどうだ。
「夏って……またアバウトだよな。もっと具体的にないのかよ」
――「夏」といえば「海」、「海」といえば「水着」、ということで「彼女に着せたい水着」で皆を楽しませるのだぞ。
「…………」
天から降る声に一同は黙り込んだ。
ほぼ初対面のメンバーでどうやってそんな話題で盛り上がれと?
五人は押し黙ったまま誰かが口を開くのをただジッと待っていた、だがこのままではいけないと察したのか最年長だからか直紀が口を開いた。
「この際だから飲みながら話してはどうですか? アルコールが入れば打ち解けるのも早いかもしれません」
この意見には誰も反対しなかった。
お題をクリアするまでは解放されないことを悟り、それならいっそのことアルコールを入れてタガを外してしまった方が楽かもしれない。
そんなわけで五人の前にはジョッキになみなみと注がれた生ビールが運ばれてきた。
そして一時間後。
「マジで!? 彼女、コーコーセー?」
「あんまりでかい声で言うなよ! バレたら社長に怒られるんだからな」
「ってことは庸介さんと……五歳違い?」
「五歳って聞くと大したことないなー。俺と麻衣なんて八歳違うし、ハタチ過ぎたら五歳差なんて全然気にならないけど……高校生と付き合ってるって聞くとすっげぇ犯罪っぽい!」
期待を裏切ることなくアルコールはすっかり見えない壁を取り除いた。
特に陸と庸介と明利は年も近いせいかあっという間に打ち解けて互いに名前で呼び合うまでになっていた。
「確かにタマがハタチになったら俺は25だしな。たいしたことないかー。付き合い始めた時にはまだ中学生だったんだけどなぁ」
「ハァァァッ!? 中学生!?」
庸介の言葉に陸はビールを吹き出しそうになって慌てて口を押さえた。
ゴホゴホッとむせながらジョッキをテーブルの上に置くと手で口元を拭いながら庸介に顔を近付けた。
「オニーサン、犯罪でしょ」
「いや……正確には中学の卒業式だから、中学生じゃないのかも」
「高校に入学するまでは中学生だろ」
首を傾げる庸介にビールからハイボールに変えた和真がタバコ片手に口を挟んだ。
いつもならこの手の話題には参加しないはずの和真も、屋外の解放的な雰囲気のせいか若いパワーに圧されたのかそれともヤケになったのか嫌な顔一つ見せない。
「中学生って……それもう完全に淫行でしょ! 淫行、淫行! エロっていうより……ロリ?」
「バッ……そんな大声で連呼すんなよっ! 第一まだ……淫行なんて呼ばれることまだしてねぇし」
「うっそ……、何してんの?」
「据え膳食わぬは男の恥という言葉を知らないのか?」
まさかの庸介の「まだ」発言に陸と和真は冷ややかな視線を送ったが、庸介はその視線をうるさそうに睨み付けてからグラスに残っていたビールを一気に流し込んだ。
「据え膳じゃねぇし! 高校生抱くなんてそんなこと出来るか!」
「とかいって……そういうことも含めて中学生と付き合ったんだろー?」
「中学生じゃない、中学を卒業した後だ!」
「高校生になるまでは中学生だと何度も言ってるだろう」
ニヤけた顔で庸介に詰め寄る陸と顔だけはクールぶってる和真がタッグを組んで庸介を追いつめようとする。
俺、彼女いなくて良かったかも……と明利が思ったことは誰にも内緒だ。
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