『拍手小説』
七夕【雅樹&真子】

 少し早めのバーゲンがあるということで真子にねだられて週末で混雑するショッピングセンターへやって来た。

 どうして女はこうも買い物が好きなのかと呆れてしまう。

 さっきから似たり寄ったりの服を俺に見せてはどっちがいいかなどと聞いてくる。

 俺がこっちがいいと言えば不満そうな顔をして見せ、どっちも似合うと言えばもっと不満そうに眉間に皺を寄せている。

 一体どうしたいんだよ……。

 結局は自分の中で既に結論が出ていてそれに賛同して欲しいだけと気付いた頃には買い物は終わりに近付いていた。

「あとは食料品だね」

 専門店街から大型スーパーへようやく移動を始めた頃には俺の両手は紙袋に塞がれていた。

「雅樹は欲しいものなかったの?」

「俺は別にいい」

 たしかに夏のシャツやネクタイなども見たかったが真子の買い物を見ているだけで自分の買い物はどうでもよくなっていた。

 出来ることなら少しでも早くこの混雑した空間から抜け出したい。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか真子はフラフラと歩き、冷やかし程度に店を覗いてはあれこれと手に取って次の店へ行く。

 俺はその後ろから付いて行く。

 真子が店で物色している間にボンヤリしていると同じように荷物を持った男が目に付いた。

 そして俺と同じようにその先には喜々としながら店を覗く女の姿。

 どこも同じようなもんか……。

「雅樹ー! 七夕だよー」

 また足を止めた真子は俺を振り返りながら数メートル先にある笹を指差した。

 どうやら七夕のイベントで笹に短冊を括り付けることが出来るらしい。

「私達も書こうよ!」

「俺はいい、お前書いてこいよ」

「雅樹も! 早く早くーっ」

 結局は強引に腕を引かれて俺は渋々ついていくしかなかった。

 子供が短冊に子供らしい願い事を書くのを真子が穏やかに微笑みながら見つめている。

 さすがに週末のせいか長テーブルはどこもいっぱいでラベンダー色の短冊とマジックを持った真子はウロウロしていた。

「真子、ここで書け」

 俺は空いたスペースを見つけ真子を呼ぶ。

 嬉しそうに小走りになる真子の足元を心配しながら俺はひと息つくために持っていた紙袋を一旦下ろした。

「雅樹のはこれね!」

 黄緑色の短冊とマジックを差し出されては断れず仕方なく受け取った。

 こういうの苦手なんだよ……。

 そんなことは誰よりも真子が知っているはず、その証拠に短冊を書きながらチラチラと俺の方を見てはクスクス笑っている。

 あーもう……しょうがねぇ。

 グズグズしていればいるほど真子にからかわれることは間違いなく俺はマジックを手に取った。

「私も一緒に飾って! 高いとこがいいなー」

 書き終わった真子に短冊を渡されて、俺は自分のと一緒に視線よりも少し高い位置に括り付ける。

 自分の書いた願い事はともかく真子の願い事を見て思わず口元が緩んだ。

 真子と結婚してから小さな幸せがいくつも重なって、それが時に大きな幸せとなってくることもある。

 こんな穏やかな時間は今までにはなく、ふとした時にこの時すらも夢じゃないかと思ってしまうことがあった。

「ねぇねぇ、雅樹見てー」

 短冊を括り付けていると真子にシャツを引かれて視線を落とした。

「こういうのって可愛いね。なんか若いなーって感じがして羨ましい」

「なんだそれ」

 真子が見ていた橙色の短冊には「好きな人のお嫁さんになれますように」と書いてあった。

 羨ましいってお前だって……その願いなら叶ってんだろうがと思わず文句を言いたくなるのをグッと堪えて何となしに近くにあった短冊を見る。

 水色の短冊には「夢が叶いますように」と書いてあった。

 夢か……俺のあの頃の夢は……。

 自分も真子もあの頃の夢を叶えたからこそ、今こうしてここにいるんだとくすぐったい気持ちになった。

 お前の夢も叶うといいよなと心の中で呟きながら水色の短冊を離して真子に向かって手を伸ばした。

「バカ、荷物持つなって言ってんだろ」

「これくらい平気だよー」

「いーから、よこせ」

 真子の手から乱暴に買い物袋を受け取って歩き出すと真子が俺の肘に手を掛けて並んだ。

 俺は反対側の手で荷物をすべて持ち直すと出来るだけゆっくりと歩くことに気を付けながら、混雑するショッピングセンターの通路を真子を守るように歩く。

 いつだって俺の願いはお前を守ること……それはきっとこの先も変わらない。


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