『拍手小説』
rain【貴俊×祐二←BLです】
チラッと視線を窓の外へとやった。
外は昨日からの雨がまだ降り続き、グランドには大きな水溜りをいくつも作りさらに大きさも数も増えそうな勢いだ。
俺は視線を戻し手元の資料を目で追う。
生徒会執行部のスムーズな進行で会議は何の問題なく進んでいる。
でも俺の心はこの空のように晴れることはない。
二学期が始まると学校はイベント尽くしだ、そのための会議を各役員を集めて始まったばかりだ。
まだ夏もまだで秋の話なんてピンと来ないがそれくらい前から準備をしても後で色々と問題が起きるのだと先輩でもある前任の生徒会長が言っていた。
だからそれは仕方がない……にしたって……。
また窓の外で降り続く雨を見る。
祐二、帰ったよな……俺先に帰ってもいいって言ったし。
部活が休みになった祐二を一時間も二時間も待たせるわけにもいかず俺は笑ってそう言った。
はっきり言ってやせ我慢の何ものでもない。
今頃になって何でそんなこと言ったのかと後悔している、こんな気持ちになるなら文句を言われてもたとえ何かを奢ることを引き換えにしてでも待っていてもらえば良かった。
ようやく付き合えた俺は四六時中祐二と一緒にいたかった。
でも祐二はきっとそうじゃない、元々俺に対して何かと対抗しようとする祐二だから素直に俺に甘えてくれるわけじゃなかった。
それでも誰も居ない所なら手を繋いでも振り解かない。
キスだって俺がうっとりするようなキスを返してくれることがある。
会いたいよ、祐二。
さっきまで一日一緒に授業を受けていたのにそんなこと言うなんておかしいって分かってるけど恋しくて仕方がない。
それは外の雨のせいなのか淡々と読み上げられる案件のせいなのか、俺はどうにかため息をつくことだけは堪えながら会議に集中することにした。
俺は傘を差しながら重い足を引きずるように家に向かった。
本当はちょっと期待してたんだ、祐二が文句を言いながら変な言い訳しながら待っててくれるんじゃないかって。
でも、そんなことはやはり俺の勝手な想像だった。
付き合えたんだからこれ以上高望みしてないと分かっていても、二人の気持ちがもう少し寄り添ってくれたらいいと願わずにはいられない。
もっと好きになって欲しいなんて口が裂けても言えない。
「どうかしてるね……今日は……」
ようやく家に辿り着き暗い気持ちを振り切るように傘の雫を払い家に入ると玄関に見覚えのあるサンダルが置いてあった。
「ただいま!」
俺はいつになく早口で声を掛けると階段を駆け上がった。
乱れてしまった息を整えるためにドアノブを握って一回深呼吸してからドアを開けた。
暗い部屋の中を瞳を凝らして彷徨わせたがすぐに止まる。
朝出るときにはきれいにしたはずなのにベッドのシルエットは山を描いている。
「……祐二」
思わず名前を口にした。
「んぁ?」
「祐二」
「あぁー真っ暗じゃん! 今、何時だよーって……ウワッ! 急に電気点けんなっ眩しいだろっ! バカッ!」
祐二の顔が見たくて思わず点けてしまうと祐二は目をギュッと瞑り布団の中へ潜り込んだ。
どうしよう、嬉しすぎて何て声を掛けたらいいか分からない。
俺は黙ってベッドに腰掛けた。
「遅かったんだな」
「うん」
布団の中から聞こえて来た声に返事をすると、もぞもぞと動いた布団の中から祐二が目だけ出して俺を見た。
何か言ってくれるんだろうか。
それが甘い言葉のわけがないことは分かっていても、もしかしたらとつい期待してしまう。
「宿題……俺、明日当たるからやりに来た」
心の中でやっぱり……と苦笑いになる。
それでもまた顔を見れたんだから十分だと思いながら部屋の中を見るとそれらしきノートが見当たらない。
「祐二、ノートは?」
「…………忘れた」
そう言ってまた祐二は布団の中に消えた。
ねぇ、祐二? きっと俺は喜んでいいんだよね。
end
―90―
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