『拍手小説』
rain【和真&かのこ】
フロントガラスをワイパーが慌しく動いている。
助手席に座るかのこはそれをボンヤリと眺めていたが、今日何度目になるか分からないため息をついた。
「何が気に入らない」
俺は日曜の夕方の渋滞の中をハンドルを握っている、ため息を吐きたいのは俺の方だった。
雨だからと言ったのに紫陽花を見るなら雨でも雰囲気がある、そんな風に言って嫌がる俺を無理矢理引っ張り出した張本人が帰りの車の中でこんな調子だ。
紫陽花で有名な場所へ出掛け色取り取りの紫陽花をいつものように携帯の写真で何枚も撮っていた。
あんな喜ぶ顔が見られたなら雨の中出掛けるのも悪くないと思った。
それなのに車に乗った途端にこれだ……。
一体何が気に入らないのか俺はまったく分からなかった。
「なんか、雨って切ないですよねぇ」
「ハァ!?」
詩人かなにかを気取ってるつもりか?
雨足の強い外を眺めながらまた一つため息をつく。
「なんか理由も分からないのに胸がキュッとなるというか泣きたくなるというか……そんな感じ」
どんな感じだよ、俺には全然理解出来ない。
けれどかのこは本当にそんな気持ちらしく、睫毛を少し伏せる横顔が愁いを見せている。
ふと見せたその表情がいつもよりも大人の女に見えた。
それが少しだけ自分の鼓動を早くすることに、俺は戸惑って理由もなくそんな表情をするかのこに腹が立った。
「……泣かせてやろうか?」
「えっ?」
俺の言葉に反応したかのこの表情に急に動いた。
渋滞中のうえに幸いよく降っている雨のおかげで周りからは見えにくい。
俺は右手をかのこの太ももを撫でるようにスカートの中に差し込んだ。
「ちょっ……だ、だめっ! 車の中で……運転中なのにっ!」
「運転してるのは俺だ」
かのこの手がこれ以上入らないようにて俺の行く手を阻む、だがそれが逆に柔らかい太ももに押し付けられていることにかのこは気付かないのだろうか。
俺は指先を動かしてかのこの太ももを撫でた。
「んっ……」
「これだけで感じたのか?」
「ち、違うっ! もうっ早く手……外して下さいっ!」
かのこが止めるのも空しく俺の手は少しずつ奥へ奥へと進む。
その度に抵抗していたはずのかのこの手から力が抜けていくことに気付いた俺はわざと動きをゆっくりにした。
指先で円を描くように太ももの内側を滑らせる、さっきまで踏ん張るように閉じられていた太ももは今は拳一つは十分入るほど開かれている。
「やっ……あ、っ……だめっ」
あっという間に濡れた声を上げる。
かのこは今までのどの女よりも感じやすい、そうさせたのが自分だということとそれをかのこが死ぬほど恥ずかしがることに俺の中の男は満たされる。
「もっといい声で啼けよ」
「いやっ……こんなっ……」
「泣きたかったんだろ?」
「違っ、こっ、んな……指、動かさないで……ッ」
触れた先が熱い。
かのこの熱に温められたそこはじっとりと濡れているような気さえした。
指先に触れた生地の感触を確かめるように細かく指先を動かすとかのこは堪えきれないと両手で口を覆ってしまった。
それでも止められない声がくぐもって聞こえて来る。
目元赤く染め瞳を濡らし縋るように俺を見上げる。
その顔が見たかった、あんな知らない女の顔なんか俺に見せるなよ。
お前はいつだって俺だけを見て、俺しか知らない俺のかのこでいればいい。
スカートの中から手を抜き乱れを直してやるとかのこの肩を抱き寄せてつむじにキスを落とす。
「このままアパートに帰るか? それともマンションに寄るか?」
「…………マンション、行きたい」
かのこが甘えた声を聞きながらどうやら前の方が渋滞を抜けたらしく車の列が徐々にスピードを上げる。
いつ間にか小降りになった雨のおかげか視界だけでなく心もクリアになっていた。
end
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