『拍手小説』
GW【貴俊×祐二←BLです】

 ※BL小説です。

 人・人・人……。

 連休だから混んでいるだろうと思っていた祐二もさすがに予想を超えた人の多さにウンザリした。

「大丈夫だよ。チケットはもう予約してあるから」

 そう微笑むのは隣に住む幼なじみの貴俊、エスコートするように背中に手を添えているのは二人の関係が幼なじみ以上のものだからだ。

 二人は揃って近くのショッピングセンター内にある映画館へと来ていた。

 数日前に公開したばかりのアクション映画を公開前から楽しみにしていた祐二を誘ったのはもちろん貴俊。

「ちょっと待て!」

「どうしたの?」

 中へ進もうとする貴俊だったが祐二の声に足を止めた。

 祐二は人の多いロビーをキョロキョロと見渡してからお目当ての場所を見つけると貴俊に構わず歩き出す。

「祐二?」

「映画にはコーラとポップコーン!」

「席に座ってから俺が買って来てあげようと思ってたのに」

 これがないと始まらないとでも言いたげな祐二に貴俊はクスクス笑いながら注文カウンターへと進むとLサイズのコーラとポップコーンを注文した。

「何やってんだよ。俺が買うって」

 当たり前のように財布を取り出した貴俊に祐二は驚いて自分がと財布をポケットから抜いた。

「いいよ。俺が誘ったんだし……」

(それにデートなんだから)

 その言葉は呑み込んで心の中で呟くのはここまで来て祐二の機嫌を損ねるようなことはしたくないから。


 祐二は少し居心地悪そうにしながらも大人しく財布をしまった。

「わ、悪い……な。チケット代とかもアレだし……今度なんか奢る」

「そんなこといいんだよ。さぁ、行こう?」

 貴俊はコーラを祐二はポップコーンを持ち列が出来ている入り口へと進んだ。

 連休中とあって場内はほぼ満席だった。

 前もって予約していたおかげで二人は問題なく座れ祐二はこの時ばかりは貴俊の根回しの良さに感心を示したが自分の座っている席と周りを見渡して怪訝な顔をした。

「やっぱり……おかしいだろ。コレ」

「どこが?」

「どう見ても……男二人で座る席じゃねぇ……」

 二人が座るのはペアシート、ズラッと並んだ座席を見渡せる位置にあるそれはリクライニングも出来るソファのようなベンチシート。

 数席しかないがすでにカップルですべて埋まっている。

「でもこれならゆっくり見れるでしょ? 祐二……結構ゴソゴソ動くから後ろの人に注意されることあるし」

「ウッ……それはそうだけど……」

(これじゃ……まるで恋人同士みたい……)

 祐二は周りをキョロキョロ見ながら行き着いた考えにハッとして隣に座る貴俊を見た。

 涼しい顔をして映画の予告を見ていた貴俊の横顔を食い入るように見ているうちに沸々と湧き上がってくるのは怒りとそれを上回る恥ずかしさ。

「お、お、お、おまえ……きょ、今日って……もしかして……」

 うろたえる祐二の声に振り向いた貴俊はニッコリと笑う。

「映画館デートっていうのも定番だけどいいよね」

 悪びれた様子もなくそう言うと場内が暗くなり二人を闇が包んだ。

「貴俊ッ!」

「シーーッ! もう始まるから静かにしないと……」

 小声でそう言われて仕方なく祐二は大人しくした、映画に誘われ何の疑いも持たなかったが考えてみればそういう関係になったのだから二人で出掛ける=デートというのは当たり前だった。

(デート……もしかして、だから……これも……)

 ホルダーに入ったコーラとポップコーンを思い出しさらに込み上げるのは訳の分からない悔しさ。

(これじゃあまるで俺が彼女みてーじゃねぇか!)

 彼女扱いされているのが悔しくて映画が終わったら映画代もその他のお金もキッチリ払おうと決める。

「祐二、見ないの?」

「……んっ」

 不意を突いたように耳元で囁かれた祐二の口から可愛い声が漏れた。

 慌てて両手で口を塞いだ祐二自身に自覚があるくらいだ、当然ながら貴俊がそれを見逃すはずもない。

「積極的な祐二も可愛い」

「誰が可愛ッ……」

「シーーッ! 静かにして? それとも俺に塞いで欲しいの?」

「バ、バカ言う……ンゥッ!」

 再び大きな声を出した祐二は最後まで言うことが出来ず重低音が響く中で優しく抱き寄せられる。

 横目でチラチラとスクリーンを見ていた祐二だったがすぐにそんな余裕もなくなり目を閉じることしか出来なかった。


end

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