君の隣

 早朝にも関わらず既に駐車場は埋まり始めている。

 係員の誘導で車が止まると同時に助手席と後部座席のドアが開いた。

「早く並ばねぇーとやばいじゃん!」

 続々と入って来る車を振り返った祐二は助手席から降りてきた日和と顔を見合わせた。

「うわー、ほんとだー! 祐、早く行こぉ」

「おぅ!」

 二人が駆け出すと運転席と後部座席が開き、降りた二人がその後ろ姿に視線を送る。

 跳ねるように走っていく後ろ姿が急に立ち止まり二人が同時に振り返る。

「何やってんだよー! 早く来いよー」

 ダウンジャケットにボンボンの付いたニットキャップ姿の祐二が手を振る。

「はーやーくーぅ!」

 ファーの付いた白いダウンジャケットの日和が可愛い声で手招きをする。

 貴俊はくらりと目眩を覚えて額に手を当てた。

「やばい、可愛すぎる」

「頑張れ、俺の自制心」

 貴俊の呟きに運転席から降りた日和の恋人も同じように呟いた。

 二人は顔を見合わせてから歩き出し、小さくなっていく可愛い恋人の姿を見つめながらポツリポツリと言葉を交わした。

「途中、車に戻って変なことしないで下さいね」

 貴俊がチクリと釘を刺せば、日和の恋人もまたやり返す。

「ずっと膝枕してた奴に言われたくないね」

「もしかして、羨ましかったんですか?」

「別に羨ましくなんかねぇよ。日和は俺の為に起きててくれたんだからな」

「祐二も俺の膝だからぐっすり眠れたんだと思いますよ」

 二人の会話が別の方向に燃え上がりそうになると、かなり前を行く二人が振り返って手を振った。

「はーやーくーーー!」

 可愛い恋人に声を合わせて手を振られると、二人は迷うことなく駆け出した。

end

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