意地悪な恋

 目の前で起きていることが現実なのか分からない、確かめたくて思わずスカートの上から太ももを抓った。

「痛い」

「何か言ったか?」

「な……んでもない」

 やっぱり、現実なんだ。

 隣に並ぶ私の恋人・如月和真は黒のロングコートがよく似合う。

 冷たい風が吹き付けると少し嫌そうに眉根を寄せ、眉より長い前髪を手でかき上げた。

 頭上には直径1メートルはある大きなクリスマスリース、その奥から聞こえてくる賑やかな声。

 西へ傾いた太陽、薄暮れの空にライトアップされたジェットコースターが駆け抜けていった。

「寒くないか?」

「う、うん……平気」

「中に入るぞ」

 歩き出した和真の後を追いながら、その後ろ姿と背景のミスマッチさに、「どうして?」と聞くタイミングが掴めない。

 ゲートを通るとそこは別世界、鈴の音が鳴り響き、着ぐるみのキャラクターが愛嬌を振り撒いている。

 行き交う人も飾りつけもすべてがクリスマスカラーに包まれたテーマパークに私は来てしまった。

 行き先も告げられず車に乗せられたのは昼食を食べ終えた後だった。

 美味しい料理を食べ、暖房の聞いた暖かい車内、静かに流れるジャズ、当然とばかりに瞼は落ちてしまった。

 かなり眠ってしまった後、目が覚めた私の視界には見慣れない風景、飛んで流れていく車窓の景色が飛び込んで来た。

 何を聞いても「さあな」としか言わない和真、自分がどこにいるか気が付いたのはナビの表示だった。

 太陽を追いかけるように高速を乗り継ぎ、出口を降りた車はナビの指示がするホテルの駐車場へと入った。

「ここで待ってろ」

 駐車場からフロントのある1階へと上がると、和真は私をロビーに待たせると、すぐに戻って来た。

 そして、今に至る。

「かのこ、何してる。早く来い」

「うんっ」

 ぼんやりしていた私は和真に呼ばれ慌てて視線を戻す。

 隣に並んで入り口で貰ったパークガイドを開きながら和真の顔を見上げた。

「まずは何、乗る?」

「コーヒーが飲めて、暖かくて、うるさくない場所」

「……そういうアトラクションはないと思うけど」

 和真らしいといえばらしいけれど……。

「乗りたいなら一人で乗って来い。俺は適当に時間潰している」

 クリスマスに一人で乗れと?

「ねぇ、和真。どうして連れて来てくれたの?」

 強引に和真を乗せることは無理だろうし、早々に諦めて良さそうなレストランを探すことにした。

 地図を見ながら家族連れやカップルでごった返すパーク内を進んでいく。

「そのうち分かる」

「……そうですか。ところで……さっきから気になってたんですけど、持っている袋何が入ってるんですか?」

 車を下りてから手に提げている紙袋を指差した。

 和真は袋に視線を落とした後、少しだけ口元に笑みを浮かべた。

「それも、そのうち分かる」

 あーはいはい。和真さんは秘密主義なんですよねー。

 口に出したらとんでもないことをされそうな独り言を胸の中で呟いていると、突然和真が立ち止まった。

「どうしたの?」

「行きたい場所があることを思い出した」

「え、なになに? どこ!?」

 やっぱり和真も楽しみたいんだと慌てて地図を広げて見せる。

「喫煙所。もしくは煙草の吸えるレストラン」

「あーはいはい」

 期待した私がバカでした。

end

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