-one-

 ゲートの前には開園を今か今かと待っている人達の長蛇の列。

 冷たい風さえも負けてしまいそうなほど、熱い熱い雰囲気の二人もその中にいた。

「麻衣、寒くない?」

「うん」

「でもすっごく冷たい」

 会話だけを聞いていれば、どこにでもいる恋人同士のよう、でも色んな意味で二人は周りからの注目を浴びている。

 美容院へ行ったばかりの陸は思わず触れたくなるような艶々蜂蜜色の髪、仕事以外ではセットしない前髪を風に揺らし、後ろから麻衣に頬を寄せている。

 麻衣は……というと、防寒対策から全体にモコモコと暖かそうな装い、にも関わらず背中からはモッズコートを広げた陸に抱き締められていた。

 車の中で宣言した通り、人目もはばからずイチャイチャする陸だが、この程度は日常茶飯事なので麻衣もまた、自分達がそれほど注目を浴びているとは思っていない。

「ね、麻衣さ……アレ着けてよ」

「アレって?」

「耳とかついてるやつ。ほら、あーいうの」

 陸が近くにいた女子達を指差す、キャラクターのモコモコした耳が頭で揺れている。

 思いがけず陸に視線を向けられた女子達はあからさまに色めき立った。

 彼女がいるのは一目瞭然だが、カッコいいと思っている相手から視線を向けられれば、悪い気はしないというのが女心だ。

「いやよー。あーいうのは若い子が付けるから可愛いの」

 大学生らしきグループの女子達は、麻衣の言葉に当然とばかりに胸を張る。

 若さが武器になるかどうかは分からないが、若さというものは自分ではどうにもならないだけに、麻衣が自分には無理と首を横に振る姿に彼女達はニンマリする。

 だが陸にはそんな女子達の中にある気持ちなどお構いなしの発言をした。

「なんで? 麻衣が着けるから可愛いんでしょ?」

 さも当然とばかりに言う陸の言葉に彼女達の顔が強張ったが、これもまた日常的なよくあるやり取りなので、麻衣は周りの目など気にならなかった。

「じゃあ、陸も着ける?」

 ちょっとした意地悪心のつもりで麻衣が言っても、こんな陸にはまったく意味がない。

 嬉しそうな顔をした陸はさらにギュッと麻衣を抱きしめた。

「着ける! 麻衣が選んでよ! そんで二人で写真撮ろ!」

「もしかして……急にデジカメ買ってきたのってこのためだったとか?」

「当然じゃん。あ……どうせ暇だし、写真撮ろうよ」

「え……やだ、こんなところじゃ恥ずかしいよ」

 カメラを取り出そうとする陸にこの時初めて麻衣は恥ずかしそうに周りを見渡した。

 麻衣の心配など気にも留めず携帯を取り出す陸は麻衣の耳に唇を寄せた。

「あんま可愛いこと言うと、もっと恥ずかしいことするよ?」

 バカップル、健在。


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