姫の王子様
ドキッとしてしまった自分に驚いて、その理由を探ろうとしても、頭が上手く働かない。
「沙希ちゃんも、ク……リスマスくらい一緒に過ごす相手がいるだろうし……」
いつも珠子のことで迷惑ばかりをかけている、こんなことで折角のクリスマスに呼び出しては悪い。
そう思っているはずなのに、拓朗は胸の奥がざわついた。
「沙希、彼氏いないよ? バイトもしていないし、誘ってみよー!」
「で、でもなぁ……」
拓朗が渋っているにも関わらず、珠子はあっという間に電話を掛けてしまった。
「あ、沙希ー? あのねークリスマスなんだけどねー……」
珠子が話を始めると、拓朗はリビングの窓を開けてタバコに火を点けた。
気のない素振りをしても、耳を澄ませている自分がいる。
こうなってしまう原因はもしかしたら……と一つの可能性に気が付いた拓朗は珠子の残念そうな声を聞いた。
「そうだよねー。結構高いもんねー。うーん、じゃあ……庸ちゃんに沙希の分を出してくれるようにお願いして……。あ、やっぱりダメだよね。じゃあ仕方ないかぁ」
「た、珠子!」
電話を切ろうとしている珠子に拓朗はタバコを手に持ったまま部屋へと駆け込んだ。
「もう、お兄ちゃんタバコー! ママに怒られるよー!」
「沙希ちゃんのチケット代なら俺が出す」
「へ?」
「え……あ、いや。いっつも迷惑掛けているだろうし、今回もこっちの都合で付き合わせるようなものだし、それくらいこっちが出すのが当然、というか」
言ってしまってから一体自分は何を言っているのか分からなくなった。
拓朗はタバコのことを思い出して慌てて外へと出たが、そこで初めて自分の頬が火照っていることに気が付いた。
「なにやってんだ、俺」
熱くなった頬に手を当てて、冬の空に向かって白い息を吐く。
「お兄ちゃーん。沙希も一緒に行くってー!」
「おー」
きっと彼女のことだから、最後まで渋ったに違いないけれど、珠子が強引に「うん」と言わせたはず。
彼女はいつも嫌な顔を見せないけれど、本当は心の中では迷惑と思っているかもしれない。
「そうだとしたら、すごい悪いことしてるよなぁ」
真意を聞きだそうとしても決しても口を開かないことも分かっているからこそ、彼女が負担にならないような形でお礼をしなくてはいけない。
「チケット代だけじゃ、埋め合わせにはならないか……」
向こうで彼女が喜ぶ物を買ってあげようと考えてから、自分と一緒にいること自体迷惑かもしれないと思って、拓朗は知らず知らず深いため息を吐いた。
end
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