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-one-
まだ夜も明けきらぬ中、高速道路を西へと向かう一台の車。
夜明け前の風の冷たさも、暖められた車内では気にする必要もないのだが、助手席に座る麻衣の表情は優れなかった。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「麻衣、しつこい! 俺が大丈夫って言ったら大丈夫なの!」
「だって……今日はクリスマスで、お店でパーティあるんでしょ?」
「クリパ自体は10時から、今日は同伴しないからギリギリ9時半までに入れば大丈夫」
「誠さんの了解取ったの?」
「取った! その為に……あんな条件呑まされたんだし、絶対文句は言わせない!」
「あんな条件……って?」
「何でもない。麻衣は気にしないで、っていうか麻衣に頑張ってもらいたいんだけど……、それはまた帰りに話す」
「気になるよ」
「大丈夫、そんなすごいことじゃないから。っていうか誠さんの性格はますます悪くなってる気がする」
「それは……陸にも原因があると思うけど」
「俺は麻衣といたいだけだもん」
ハンドルを握る陸が難しい顔をすると、麻衣はフッと息を吐いてシートに体をゆったりと預けた。
「考えたってしょうがないよね。もう出発しちゃったし、本当は私もすごく楽しみだから」
クリスマスの朝、短い仮眠だけを取った陸と麻衣は束の間のクリスマスデートのため、西にあるテーマパークへ向かっていた。
イベント時には誰よりも忙しい陸、当然のように特別なクリスマスはお預けのはずだった。
でも数日前、どうやら仕事仲間に聞いた話に触発されたらしく、急に行くと言い出した。
「俺もね、ほんとすげー楽しみ! あんま時間ないから乗り物とか無理かもだけど、麻衣が見たいのを優先しようね」
「私はいいよ。それに……また来る楽しみを残しておくのもいいし」
「あーもう、すっげえ楽しみ!」
子供のようにはしゃぐ陸の横顔を見つめる麻衣は口には出さないけれど嬉しさを噛み締めていた。
陸は自分が望めばどんなことをしてでも、それを叶えるために他のすべてを犠牲にする。
分かっているから迂闊なことを口に出来ない、でも人並みに恋人と過ごすクリスマスは楽しみで、密かにクリスマス特集の雑誌を立ち読みしたりもしていた。
「麻衣とクリスマスデートだよ! やっぱクリスマスだし堂々とイチャイチャ出来る!」
「人前だしあんま変なことしないでよ?」
陸の言葉に胸騒ぎを覚えつつ、釘を刺すように言うと陸がチラリと視線を送って笑う。
「クリスマスだよ? 多少イチャイチャしたって誰も気にしないって」
「私が気にするの!」
「大丈夫。人の目なんて気にならないよ、俺だけしか見えなくさせるから」
笑っちゃうようなそんな台詞も、それが現実になるから困ってしまう。
八歳年下の恋人はこうやって何度も私を恋に落としてしまう。
end
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