君の隣
すっかり暗くなり、パーク中がクリスマスのイルミネーションで浮かび上がる。
始まったショーを見る人達はほとんどカップルばかり、クリスマスなのだから当然といえば当然かもしれない。
自分達もその内の一組だと思うと、少しだけ居たたまれない気分になる。
「祐二、見える?」
「お……おう」
隣に立つ貴俊がさっきよりも半歩、俺に近付いてダウンジャケットの袖が触れ合う。
貴俊は時々だけれど、すごく思い詰めたような顔をする。
気付いてないと思っているだろうけど、ガキの頃から見ている俺は、どんな些細な変化だって気付いてしまう。
初めの頃はそんな顔をする原因が分からなくて、頭の良い奴にも色々苦労があるんだろうと思っていた。
もしかしたら……と、あることに気が付いた。
別に自惚れているわけじゃないけれど、貴俊の生活の中心はきっと……いや、間違いなく俺なんだ。
だからあんな顔をする原因は俺、俺の貴俊に対する態度にあると思う。
男同士だし、こんな関係になるまで幼馴染だったのに、急に恋人っぽくイチャイチャしろってのは無理がある。
そういうのを察して欲しいという気持ちを差し引いても、俺の態度は貴俊を不安にさせるには十分かもしれない。
だけど……貴俊は頭が良いくせに、変な所でバカじゃないかと思う。
男の俺が男のお前に抱かれるその意味をちっとも分かっていない。
お前だからあんな恥ずかしいことにだって耐えられるし、お前が触れるから男相手でも感じるんだ。
そんなことも分からないで、すべてを諦めたように泣きそうに笑う貴俊を見ると、殴りたくなるほど腹が立つ。
ここは俺が大人になってバカなお前に教えてやるしかないのかもしれない。
偶然を装って貴俊の手に触れてみる。
さらにその先をするには勇気がいるけれど、周りの甘い雰囲気に背中を押された。
冷たい手を握ると驚いたのかビクッと震え、それから貴俊は俺を見た。
何か言いたそうにしているけれど、言葉が見つからないのか口を開いたり閉じたりしている。
「来年はアトラクション全制覇な」
貴俊のように歯の浮くような台詞なんて言えないから、俺にはこれが精一杯。
これで伝わらなかったらあとは知らないと思っていると、貴俊が俺の手を握り返して来た。
「せっかくなら泊まって、次の日は観光してたこ焼き食べるのもいいね」
「欲張らなくてもこの先いくらでもあるし。でも……たこ焼きは食べたいかも」
「うん、そうだね」
それきり貴俊は何も言わなかった、俺も何も言わず真っ直ぐショーを見ていた。
将来を約束するような言葉を口にすることは出来ない、でも今の俺が浮かべる少し先の未来には間違いなく貴俊が隣にいる。
そうやって少し先の未来を浮かべることを繰り返せば、ずっとずっと遠い未来にだって俺の隣には貴俊の姿があるはずだ。
これから先もこうやって隣に立って、恥ずかしいけれど時々手を繋いで、貴俊がもう二度とあんな顔を見せなくなったらいいと思う。
そうなればいいという想いを込めて、今日はクリスマスだからと言い聞かせて、もう少しだけ素直になってみることにした。
「今日もお前ん家で寝るから」
「うん」
貴俊が照れくさそうにはにかんで笑う、本当に嬉しい時に見せる笑顔の向こうでクリスマスツリーが瞬いた。
end
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