姫の王子様

 自分みたいに……と付け加えて、隣に座っている庸ちゃんを見ると、カップに口を付けたまま変な顔をしていた。

「庸ちゃん?」

「ターマー」

「なあに?」

「お前、何買ってきた?」

「何って……」

 言い掛けてハッとして、自分の持っているカップに口を付けた。

 口の中に広がったのは期待していた甘い香りではなく、顔を顰めたくなるような苦味。

「……間違えちゃった」

 自分用のホットチョコと、庸ちゃんのためのホットコーヒー、渡す方を間違えってしまった。

 いつもお兄ちゃんに「落ち着いて行動しなさい」って言われていたのに、折角喜んで貰おうと思ったのに失敗してしまった。

「バーカ、なんて顔してんだよ」

「だって……」

「別に交換すればいいだけの話だろ?」

 庸ちゃんが私の持っているカップと交換してくれる。

「せっかく……」

「ん?」

「せっかく……庸ちゃんに喜んで貰おうと思ったのに……。クリスマスだから……たまには色々してあげたかったのに……」

 こんな日だから楽しく過ごしたい、久しぶりに一日中一緒にいられるから、ずっと笑っていたいと思うのに、悲しい顔になってしまいそうになる。

「ほんと、バカだなータマは」

「そんなバカバカ言わなくてもいいじゃん!」

「バカなのに可愛くて目が離せない。これ以上俺を夢中にさせて、どーすんの」

「庸……ちゃん」

 最近の庸ちゃんはちょっと前と違う。

 ドキドキするようなことばっかり口にして私を困らせる。

「口直し、してもいい?」

 甘い物が苦手な庸ちゃんの言葉に頷くと、庸ちゃんはポケットから入った時に渡されたパークガイドを顔の前で広げた。

 どうしたの……と聞くより早く触れた唇、驚いている暇もないほど、一瞬だけ触れて離れた庸ちゃんの唇。

「失敗。お前の唇はチョコより甘いのに、クセになりそーだ」

 そう言ってコーヒーに口を付けた庸ちゃん、平気な顔をしているけど帽子から少しだけ出ている耳が赤い。

「そんなことないもん。コーヒー飲んで苦いはずだもん」

 そう言いながらようやくホットチョコに口を付けたのに、ドキドキしているからなのか味がよく分からなかった。

end

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