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姫の王子様
四人一緒にゲートをくぐった所で、庸介が意気揚々と振り返った。
「と、いうことで。ここで解散な」
今日は念には念を入れてきたのか、目深に被ったニット帽に縁の太いスクエアフレームの眼鏡、いつもはファッション雑誌から飛び出したような格好も今日はシンプル、いや……言い方を変えたらとても地味だ。
そして身長差があるにも関わらず、庸介は俺の視線もものともせず、小さな手をしっかりと握っている。
くそ……本当ならここで文句の一つも言ってやりたいところだが……。
今日ばかりはいつもの調子が出ない。
「えー折角なんだから、四人で回ったらもっと楽しいのにー」
「たまこぉぉぉっ」
少しだけ面白くないという顔をしてくれた珠子に感激して抱き着こうとすると、それよりも早く庸介が珠子の手を引いた。
「タマ、今日は何の日?」
「クリスマスだよ」
「こうやってちゃんとデートするのも久々で、しかもクリスマスだろ。それなのにお前がそういうこと言うか?」
「庸介、珠子の気持ちを優先して……」
「あ、うん……そうだよね。みんなで来るのが楽しくてつい。でも……沙希のことも心配」
「そ、そうだ、そうだぞ……」
「沙希ちゃんのことなら大丈夫。タクが一緒に居てくれるから、何の心配もいらないよ、な?」
口を挟んでもことごとく遮られてしまった。
ムキになりそうになっていた俺は庸介の物言いたげな視線で、隣にいた沙希ちゃんが所在なさげにしていることに気が付いた。
あ……しまった。
これではまるで俺が沙希ちゃんと一緒に回るのが嫌みたいに聞こえたかもしれない。
「あ……なんか、すみません」
心配した通り沙希ちゃんは困ったように視線を伏せてしまった。
庸介が「ほらみろ」と責めるような視線を送ってくるし、珠子は「沙希のことをいじめないで」って視線を送る。
いじめてるつもりなんかないけれど、正直どう接していいのか分からなかった。
「えーっと、いや……謝ることなんてないから」
「あ……でも、いいんですか?」
沙希ちゃんの視線が珠子へと向けられる。
うん、言いたいことは分かるし、俺もそうしたいと思うけれど、庸介の殺気立った視線は無視することは出来ない。
今までコイツがこんな風にがっついたことなんてない、ここのところ仕事が忙しくて会えなかったせいか、人目もはばからず珠子とイチャついていた。
ここなら多少イチャつくことはあっても、それ以上をすることは出来ないだろう、と自分に言い聞かせる。
「折角来たんだから、俺達も楽しもう……って、こんな冴えない奴と一緒じゃ沙希ちゃんもガッカリだろうけどね」
「そ、そんなことないです! 私の方こそ迷惑だったんじゃないかと思ってて……」
「とんでもない。沙希ちゃんみたいな可愛い子とクリスマスに一緒なんて俺はラッキーだよ。珠子に感謝しなくちゃなー」
嘘を吐いたわけではないけれど、少し白々しかったんじゃないかと思うと変な汗が出る。
「と、ゆーことで。俺達は行くからな! タマー、最初は何が乗りたい?」
「じゃーね、沙希! ヨウちゃん、アレ! アレが乗りたーい」
そして残された俺は流れる気まずい空気に逃げ出したくなったが、そんな気持ちは腹の奥の奥に押し込んだ。
「俺達も行こうか? 何から乗る?」
「お兄さんの好きなものから……」
控えめな返事に頷いて歩き出す。
こんな風に女性をリードすることは久しぶりかもしれない。
今まで付き合って来た相手はどこか勝気で気の強い所があった。
珠子と同い年だからなのか、そんな彼女のことを可愛いと感じてしまった。
end
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