君の隣

 12月25日、夜明けの気配はまだ感じない、新聞配達のバイクの音だけが街を駆けている。

 暗い部屋の中で前触れもなく目を開けた貴俊は手を伸ばし携帯を手に取った。

 携帯の液晶が明るくなり、軽快な音が流れると同時にボタンを押し、アラームを止めると体を起こした。

 ベッドの下には布団が一組敷かれているがそこに人影はない。

 貴俊は狭いシングルベッドの上、盛り上がっている布団に手を当てると軽く揺すった。

「祐二、祐二……起きて、時間だよ」

 寝起きのせいか少し掠れた声、だがその声に反応したのか布団がもぞもぞと動く。

「まだ……ねみぃ……」

「ダメだよ。日和達が迎えに来るよ」

「うう……」

 唸り声を上げながら布団から顔を出した祐二は薄暗い中で目を開けると数回瞬かせる。

 貴俊は目を細め、今にも蕩けそうな笑みを浮かべると、寝癖の付いた祐二の髪を撫でた。

「おはよう、祐二」

「んー」

 眠りから覚めきっていない祐二が再び目を閉じてしまうと、貴俊は額に掛かる髪をかき上げて額にキスをする。

 祐二は王子のキスで目を覚ます姫のように目をパチッと開くと、大きな黒目で至近距離にある顔を睨みつけた。

「朝っぱらから何をしやがる」

「何って。おはようのキス」

「そんなもの頼んでねぇ!」

「うん、俺がしたかっただけ」

 憤慨する祐二の態度はいつものことなので、大して反応を示すこともなく貴俊は大きく体を伸ばした。

「お前なぁ……」

 祐二もまた何があっても動じないいつもの貴俊の態度にムカつきつつものそりと体を起こした。

「さみぃ……ねみぃ……」

 部屋の冷気に包まれた身体をぶるりと震わせると、祐二は両腕で自分を抱くように身体をさすった。

「祐二」

「なんだよ」

「メリークリスマス」

 甘い声と同時に背中から身体が温もりに包まれて祐二は唇を尖らせた。

 いつもなら罵声・怒声にパンチのオマケまで付けるはずなのに、囁かれた言葉はまるで魔法の呪文のように気持ちを優しくさせた。

「朝から何浮かれてんだよ」

「クリスマスに祐二と一緒にいられるから」

「毎……年、一緒にいるだろうが」

「でも今年は違うよ。きっと今まで最高のクリスマスになる」

 身体を抱き締めていた貴俊の腕が緩くなると、祐二はゆっくりと振り返った。


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