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『3daysオマケ2』

 ボソボソと低い声に眠りの浅くなった脳が刺激されている。

 それがようやく陸の声だと気付き瞼を持ち上げた、でも疲れているからかその動作さえも億劫で途中で諦めてしまう。

(あったかい……)

 自分の身体はサラサラとしたシーツに触れている部分が少しだけ、まるで猫のように背を丸め横向きで眠る背中には温かな肌が触れていた。

 その温かさに自分が何も身に付けていないことに気付いた。

(あ……そのまま寝ちゃったんだ)

 自分が何時に寝たのか記憶はない、二日続けてたっぷりと陸の愛を身体に受け最後の方はよく覚えていなかった。

「リ……」

 声を出そうとしてひどく喉が嗄れているのかただの空気しか出なかった。

 まだ陸の低い声は続いている、一体誰と話しているのか気になってもう一度瞼を持ち上げる。

 瞳を開けると部屋は薄暗い、けれど遮光カーテンの隙間から白い光が見えて夜が明けたのだと分かった。

(会社……電話しなくちゃ……)

 ようやく覚醒した脳が真っ先に要求してきたことはそれだった。

「陸……」

 自分の身体の下に陸の腕がある。

 守るように抱きしめる陸の腕にキスを落とす、昨夜はこの腕が強く抱きしめて細く長い指が何度も何度も自分ではいけない世界へと導いた。

「陸……」

 さっきよりはハッキリした声で名を呼びながら腕の中で身体の向きを変える。

 目の前に陸の胸板に赤い跡が薄っすらと一つ付いていた、それは昨夜まだ翻弄される前にふざけてつけた自分の印。

 自分の身体にはそれよりも濃い跡が数え切れないほど付いていることは確認しなくても分かる。

「ん? 起きた?」

 その声に顔を上げると私に腕枕をしたまま器用に体を起こし携帯を持っている陸と目が合った。

「おはよ……陸、電話……」

 誰としてるの? と聞こうとして陸の持っている電話が見覚えのない物であることに驚いて言葉を切った。

(あ……そうだ。携帯、替えたんだった)

 昨日機種変更したことを思い出し見慣れない携帯であることに納得しかけてさらに疑問が沸く。

(あの色って……私のじゃ……?)

「あ? 今、起きたんだよ。そう……当然! めちゃめちゃ可愛いに決まってんだろ? ははっ……俺もさすがにそこまではしねぇって、あぁ? そりゃ今日は一日優しくするって」

「陸? 誰と話してるの?」

 今度こそ尋ねると陸が携帯を耳に当てたままニカッと笑った。

「麻衣も話す?」

「え……誰? ってそれよりもその携帯……私のだよね?」

 自分の携帯で陸がそれほど親しげに話す相手が誰なのかすぐに検討がつかなかったが携帯を受け取るために手を伸ばした。

「もしもし?」

 寝起きで掠れ気味の声で電話に出る。

「おっはよーございまーーーす!」

 寝起きの頭には響く甲高い声が携帯から飛び出し思わず耳から話した。

「全然気にしなくていいですよー! あっ、でも明日は色々聞き出しちゃいますからね! 覚悟して下さいよー」

 それが誰の声かすぐに分かって慌てて体を起こした。

(う、うそっ!! どうして?)

 振り返るとやけに楽しそうな顔をしている陸が後ろから腰を抱きぴったりと体を寄せて携帯とは反対側の耳に頬を寄せた。


「だって、麻衣ってばぐっすり寝てるんだもん。何度起こしても起きないから俺が電話してあげたんだよ」

 電話の向こうで興奮気味の甲高い声がしていた、でも耳殻に唇を当てながら囁く陸の声の方が気になってそれどころじゃない。

 低く甘い囁きが昨夜の燻っている熱を刺激する、けれどかろうじて社会人十年の理性が燃え上がらせることを阻止した。

「あ、あのね……」

 ようやくすべてを理解すると動揺で声が震えた。

「今日はゆっくりして下さいねー! お邪魔しちゃいけないんでそろそろ切りまーす! お大事にー」

 最後のお大事にだけが綺麗にハモったことで顔が引き攣ったまま電話は切れた。

 携帯を持つ手をだらりと下ろす、その前にチラッと見た時刻はちょうど始業時刻ぴったりだった。

「叩いてでも起こしてよーーーーーっ!!」

 まだ今日が始まったばかりなのに、明日のことを考えると憂鬱でそのまま前に突っ伏した。

(あぁ……もう最悪……)

 掛け布団に顔を埋めているとノシッと陸が覆い被さってきた。

「どうせバレバレなんだし、今さらじゃん? それよりも……もう少し寝よ?」

 チュッと背中にキスをされそのまま抱えられるようにして布団に横になる。

 本当はこんなことしてちゃいけないと思うのに、その温もりが愛しくて疲れた身体に優しくて陸の腕を振り解けずにそのまま目を閉じた。

 明日のことはまた明日考えればいいよ、自分に言い聞かせる声も少しずつ遠のいていった。

end



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