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『3daysオマケ』
麻衣は車が止まるのと同時に視線を感じて顔を上げた。
信号待ちの車内で運転席に座る陸はハンドルにもたれながら顔だけを助手席の麻衣の方へ向けている。
食事を済ませたあともすぐには帰らず賑わう街を二人で歩き、店の近くのコインパーキングに停めてあった車に乗込んで帰宅途中。
いつもは混んでいる道も時間が遅いせいかスムーズに流れていた。
「な、なに?」
麻衣は口元はしっかりと笑みが浮かべジッとこっちを見ている陸と目が合った。
ニッと笑う陸の視線は麻衣の顔から手元の携帯へと移りまたニヤッと笑いながら麻衣の顔へと視線を戻した。
「何だかんだ言って気に入ってんじゃん」
「べ、別にそんなんじゃないもん!」
「嘘ばっかり。車乗ってから俺のことなんかそっちのけでずーーーーーーーーっと携帯触ってるのに?」
「別にそっちのけじゃないし。そんなに言うなら私が運転するっ!」
「いや、それは遠慮します」
陸の間髪入れない返答に麻衣はさすがの頬を膨らませた。
運転が下手でしかも前に陸の車を廃車にしているのだから当然といえば当然の反応、それでもそこまではっきりされるとさすがに自覚していても気分の良いものじゃない。
少し不貞腐れた麻衣が窓の方に顔を向けてしまうと陸は笑いながら左手を伸ばした。
指先で麻衣の柔らかい頬を突付く。
「麻衣、麻ー衣、麻ー衣ちゃん。こっち向いて?」
ご機嫌を取る陸の声色は優しくて甘い響き。
そんな声を出されて拒めないことは誰よりも麻衣自身が分かっている。
麻衣は頬を膨らませたまま陸の方を見るとさっきとは違い優しく微笑む陸の瞳と視線が絡まった。
「新しい携帯が嬉しい? それとも俺とお揃いなのが嬉しい?」
麻衣の膝の上には真新しい携帯、後部座席には携帯ショップで受け取った同じ袋が二つ。
壊れて(壊して)しまった陸の携帯を買いに行ったのだが、かなり強引&ワガママな陸の発言により麻衣の携帯も真新しいものになった。
――だって壊れたのって結局麻衣にも原因があるんだし。
そんなことを言われたら麻衣は陸に従わざるを得なかった。
本当はそんなことこれっぽちも思っていない陸が麻衣とお揃いの携帯にしたいがために吐いた嘘。
そんな可愛い嘘なら麻衣は大歓迎だった。
最初は渋々だったはずの麻衣は車に乗ってからずっと新しい携帯を手の中に置いたまま離さず、それこそ気に入ってる証だと分かっていながら聞いてくる陸の魂胆は見え見えだった。
「それは……どっちも嬉しいよ?」
「ブー! そういう時は俺と一緒で嬉しいって言うんだろー?」
期待通りの答えじゃないことに不貞腐れた陸は信号が変わると同時にスムーズに車を発進させた。
逆に期待通りの反応を見ることが出来た麻衣はそんな陸を見て小さく笑う。
「俺もストラップ付けようかなー」
「どうしたの? 邪魔になるから嫌いって言ってなかった?」
「麻衣とお揃いの。そしたら全部お揃いだろ? なんか良くない?」
ハンドルを握りながら話をしても危なげない運転をする陸、麻衣は手の中にあった携帯を鞄にしまうとシートの体を預け陸の横顔を見た。
(やっぱり……かっこいいな)
麻衣は運転する陸の横顔が好きで、長い睫毛もスッと通った形のいい鼻筋も顎のラインもどれも好きだった。
でも一番好きなのは……。
「麻衣ちゃん、見すぎだって! さすがに照れる」
陸は右手だけでハンドルを握ると照れた顔でチラッとだけ麻衣を見て左手で麻衣の目元を覆った。
その照れた瞬間の陸の顔を見るのが麻衣は嬉しかった。
普段は照れた顔なんてほとんど見せない陸が見せる数少ない貴重な瞬間。
麻衣は両手で陸の手をゆっくり外しながらまだ少し照れの残る陸の顔を見て口を開いた。
「お揃いのストラップ、今度一緒に選ぼうね?」
麻衣の言葉に嬉しそうに頷いた陸はマンションへと続く道へとハンドルを切った。
end
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