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『また、いつか』
「ママ、この写真は高校生の時?」
「そうよ。ママとパパとパパのお友達で撮ったの」
サイドボードに写真を並べているとさっき出してきたばかりの懐かしい写真を指差されてニッコリと頷いた。
一番新しい写真は真新しい制服に身を包み笑顔を見せる女の子と仏頂面の男の子が校門の前に並んだ写真。
そして指差され写真が一番古く何もない空き地でバイクに跨る金髪の雅樹と寄り添う私がバイクや仲間に囲まれている写真。
「パパ、金髪〜! 目付き悪いー」
「遥ー騙されんな。友達じゃなくて、これは族の仲間だ」
「ひーくん? ……ゾクって?」
「暴走族、分かるか?」
「えぇっ! パパって暴走族だったの!?」
「こーら、二人とも。ひーくん、写真返しなさい」
二人の思い出の写真を受け取ると懐かしそうに目を細めてからサイドボードに戻した。
それをまだ興味深そうに眺めているのは娘の遥(ハルカ)、そしてつまらなそうな顔でソファに戻ったのは息子の聖(ヒジリ)、双子の二人はこの春に高校生になった。
少しふっくらとしている遥は高校生の頃の自分の面影があり、息子の聖は歳を重ねるごとにその風貌も口調も似なくていいところまで雅樹に似てきていた。
「俺にもバイク買ってくれよ」
「ひーくんはまだ免許もないでしょ?」
「そんなの直ぐ取ってやるよ」
コーヒーを淹れて戻って来ると聖にせっつかれ難しい顔をして見せた。
蛙の子は蛙というように聖もこういう物に興味を持ったことに少し困惑した、だがここまで育ってきてくれた子供達を見ればそれすらも許してしまいそうになる。
「ママだけじゃ決められないわ」
マグカップを手に持ったまま子供達の向かい側のソファに腰を下ろした。
新しい家に引っ越して十年、天井が高く太陽光をたっぷり取り入れるために全面窓のリビングからは自分の育てている花達が眺められるお気に入りの場所。
私はソファに座り午後の光に照らされる庭を少し眺めて、風に揺れるラナンキュラスに目を細めながら持っていたマグカップを斜め前に差し出した。
「コーヒー、置くね」
声を掛けると読んでいた新聞を畳みながら雅樹が顔を上げた。
仕事の忙しい雅樹が週末に家にいることは珍しい、少し貫禄の出て来た雅樹は目元を緩めコーヒーに口を付けた。
「なぁ、親父。いいだろ? 俺にもバイク買ってくれよ」
「欲しけりゃ自分で買え」
まだ諦めていない様子の聖が今度は雅樹に向かったが、バッサリと切り捨てられてむくれている。
(ホントに変わらないんだから……)
こういう風だから聖もだんだん似てくるんじゃないかしら、と息子の成長の方向は雅樹の言動にも原因の一端があるんじゃないかと思った。
「っんだよ!」
「パパだって自分で貯めたお金で買ったのよ?」
不貞腐れる息子を宥めるつもりが、どうも父親の援護をされたと思ったらしく不機嫌そうに目も合わせない。
そういう所までそっくりでチラッと雅樹を見てから小さくため息をついた。
「パパ! 遥もあの写真みたいにバイクに乗せて!」
「ダメだ」
「えぇー、どうしてぇー」
「俺の後ろに乗れるのは真子だけだ」
「ちょっと……雅樹」
可愛い愛娘の言葉にも調子は変わらない。
子供達をとても可愛がっている雅樹だが、それ以上に心を配り愛してくれるのは昔と何一つ変わらない。
「けっ! いい年してキモいんだよっ」
「ヒジリィッッ!」
ボソッと呟いた聖の言葉に雅樹が大きな声で一喝すると遥が小さな悲鳴を上げた。
(ホント……子供相手に……)
「悔しかったら女の一人でも作るんだな」
すぐにそう付け加えて笑う雅樹が足の先で軽く聖の足を突付くのを見て、私と遥はホッとしながら顔を見合わせて微笑んだ。
「ママとパパは高校の同級生なんでしょ? どうやって出会ったの?」
「そうよ。聞きたい?」
遥は目を輝かせながらウンウンと頷いた。
「真子、そんな話しなくてもいいだろう」
困ったようにでも少し照れくさそうな顔をする雅樹が立ち上がろうとする。
でも、話してあげたい。
この子達がいつか大切な誰かと出会い恋をする前に、私達が一瞬で駆け抜けたあの夏の恋物語を……。
end
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