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『先生、可愛いです』

 初デートの数日後、直紀さんから連絡があり二回目のデートの待ち合わせは駅前にあるお洒落なカフェ。

 突然の呼び出しにも関わらずしっかりお洒落をした私が息せき切って待ち合わせ場所へと向かうと、先に店に来ていた直紀さんの向かい側にはイトコの美佐子さんが座っていた。

 戸惑っている私と気まずそうな直紀さん、それとは対照的に満面の笑みの美佐子さん。

「もう、いいだろ」

 ジロジロと私を見ている美佐子さんを直紀さんがジロッと睨んだ。

「あ、あのぉ……」

「この前はごめんね。ビックリしちゃったよね? 私は直紀のイトコで美佐子、直紀のお父さんが私の母の弟なの」

 本当に嫌そうな顔をしている直紀さんのことはお構いなしという感じで美佐子さんは話し始めた。

 隣に座った直紀さんはイライラしながらタバコに火を点けている、私がチラチラとそっちを見ていると身を乗り出した美佐子さんの顔が私の視界に飛び込んできた。

「直紀の彼女ってホント?」

「は、はい……」

「この前まで高校生?」

「はい……」

「こんなんでいいの?」

 美佐子さんは次から次へと質問をして、怪訝そうな顔で直紀さんを指差した。

「オイ」

 直紀さんは片手でその指を弾きながら眉根を寄せた。

 私が小さく頷いて返すと美佐子さんは目を見開いてさらに身を乗り出した。

「こんなむさくるしい男じゃなくても奈々ちゃんならもっと若くてピチピチのカッコいい男の子が選り取りみどりでしょ??」

「えっ……」

「もしかして脅されてるとか??」

「オイ」

「あ、あのっ」

「大丈夫よ! 怖がらなくても私がこの変態はシメてあげるから正直に言っていいのよ!」

 へ、変態って……。

 何だか思わぬ方向へと向かっている気がする会話にハラハラした。

「変な写真とか撮られてない?」

「オイ」

「ハァハァ言いながら触られてない?」

「オイッ」

「制服だけじゃなくて体操服とかスクール水着とか会う度に着ろって言わない??」

「オイッ!!!」

 ドンッと先生が叩きつけた拳のせいでテーブルの上のコップが跳ね上がり私は倒れないように慌てて掴まえた。

 美佐子さんの顔を見ているとそれが冗談じゃなくて真剣に話しているような気がする。

 私は何も答えられないまま……隣に座った直紀さんが顔を真っ赤にして代わりに話を遮った。

「変態扱いすんなっ!」

「あら、変態でしょ。擦れてないこんな可愛い女子高生を手篭めにするなんて」

「手篭め……ってまだしてねぇし。それに……付き合い始めたのは卒業してからだって何度も言っただろっ!」

「卒業してから? よく言うわよ、卒業式に無理矢理拉致ったくせに」

「ら、拉致!? 冗談ぬかせっ! つーか誰だよ、そんなこと言ったのは!」

 あ、あのぉ……私のこと忘れられてる?

 ヒートアップする二人の会話に割り込むことも出来ず、私はまるでテニスの試合でも見ているように言葉の応酬を視線で追いかけるだけだった。

 でも子供みたいにムキになっているこんな先生を見るのは初めてでちょっと嬉しい。

「よく聞けよ、美佐子。奈々はもう大学生だし両親には挨拶済ませたし大人の付き合いが出来るくらい俺の事が好きなんだよ。お前がゴチャゴチャ言うなっ」

 お、大人の付き合い??

 直紀さんはヨレヨレのタバコで美佐子さんを指しながら言うけれど、それを聞いて美佐子さんは盛大なため息をつき頭を振った。

「奈々ちゃん、本当にこんなんでいいの? 今なら間に合うわよ。こんなんが初めての男なんて……一生後悔しちゃうかもしれないわよ??」

「え、えっ……あのっ……」

 初めての男という言葉に頬が熱くなるのを感じた。

 それは……やっぱり直紀さんと私がそういうことを、キス以上のことをするってことで……ちょっと怖いけど、でも私は……。

「私は……」

 二人に比べたらずっと小さな声で切り出すと二人が同時に私を見た。

「初めては……直紀さんとがいいです。ずっと好きだったし……直紀さんがイヤじゃなかったら、です、けど……」

 初めての相手は面倒って言っていたクラスの男子のことを思い出して最後の方はボソボソとさらに小さな声になってしまった。

 それを聞いていた二人の表情が固まってしまった。

 変なこと……言っちゃったのかな。

「奈々ちゃん、それ最強だよ」

 美佐子さんは力なく呟き額に手を当ててしまい、私は隣に座る直紀さんをチラッと見た。

「な、直紀さん……?」

 もしかして……て、照れてるんですか!?

 俯いた直紀さんの顔は両手で覆われていたけれど、それでも隠しきれない耳やうなじが真っ赤に染まっていた。

end


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