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『陸くんと悠斗くん』

 珍しく陸さんが麻衣さんと3人で飯を食おうって言うからついて来たのに…この人は…。

 麻衣を待っている店の中で悠斗は陸の顔の前でパンパンと手を叩いた。

「陸さん、顔!顔ー!」

 ぼんやりしていた陸が顔を上げた。

「どーしたんすか。締まらない顔してますよー」

「そーか?」

(まぁ原因は麻衣さんだろうけど)

「で、バレンタインで何かあったんですか?」

 悠斗の言葉に陸の顔がさらににやけた。

(見てらんねぇ!つーか見たくねぇ…)

「クッキー美味かったっすよね。陸さんは何貰ったんすか?」

「聞きたいか?」

(聞きたくなんかないって!聞いてくれって顔してんのはそっちのくせに)

「やっぱダメだ。もったいなくて教えられねー!!」

 陸が恥ずかしそうに両手で顔を覆うと悠斗は呆れ顔で他人のフリをしたくなった。

(麻衣さんと一緒に居るようになってからほんと角が取れたっつーか人が変わったつーか…)

 昔の陸はどちらかというと尖っていて誰もが近寄りがたい雰囲気だったのに今はそのカケラも残っていない。

「何だよ…もうちょっと突っ込めよ」

 陸が指の隙間からチラッと悠斗を見た。

「教えられないんでしょ?聞きませんよ」

「っんだよ!つまんねーなァ」

 陸は口を尖らせてブーブー言っている。

(俺はどうしてこんな人を慕ってんのかなぁ)

 恨めしそうな視線でこっちを見ている陸に気が付いた悠斗がため息を吐いた。

「教えてください、何貰ったんですか?」

 途端に陸の顔が嬉しそうに笑った。

(こんなガキっぽいくせに仕事になると人が変わったように女を惹き付ける。そんなとこが憧れるっつーか…)

「そんな知りたいのか?しょうがねぇなー!」

(あんたが聞いてくれって顔してんだろうがっ!俺はほんとにこの人に憧れてんのか!?)

 悠斗の心の叫びは当然陸には届かない。

「チョコケーキと…」

 陸がニヤリと笑って悠斗の顔を覗きこんだ。

(はいはい、聞きますよ。聞きますとも…)

「チョコケーキと何を貰ったんですか?」

(“お前は陸の世話係だな”いつかオーナーに言われた言葉を思い出した。まったくその通りだと思う)

 期待通り聞いてきた悠斗に満足そうに頷いた陸が手招きをして悠斗を呼んだ。

 悠斗が身を乗り出して顔を近付けると陸が小さな声でボソボソと耳元で囁いた。

 ガシャッン−

 テーブルの上のグラスが倒れて水が零れた。

 慌てて店員が駆けつけて片付けている間、悠斗は背もたれにもたれたまま顔を手で隠した。

(聞くんじゃなかった)

「想像すんじゃねぇーぞ!」

 店員が片付けて居なくなると陸は悠斗に釘をさした。

(だったらワザワザ言うんじゃねーー!!)

 悠斗の頭の中は既に妄想でパンパンに膨れ上がっていた。

「陸さん…」

 真剣な顔で悠斗が声を掛けた。

「今度服の上からでいいんでそのエプロン着けたところ見せて」

「はァ?バカな事言うな!誰が見せるかっ!」

「じゃぁ麻衣さんと一日デート!!」

「バーカ意味分かんねぇ!ったく聞きたいっつーから教えてやったのに言うんじゃなかった!」

「話したくて仕方がなかったのは誰ですかっ!」

 悠斗がバンバンとテーブルを叩いて抗議すると陸は素知らぬ顔でメニューに手を伸ばした。

「分かりました。頭の中で勝手に着せます」

「なんだとっ!この変態っ!頭ん中で裸にしてるムッツリだって麻衣に言いつけてやるからなっ!」

「いいですよ。陸さんが俺に話したって知ったら麻衣さんすっごい怒るでしょうねぇ?」

「麻衣はそんな事で怒んねぇんだよー。麻衣の裸は俺のもんだから勝手に想像すんなっ!」

「別に想像するくらいいいじゃないですか!麻衣さんの裸じゃなくて想像です!想像!」

「想像でも麻衣の裸は麻衣の裸だーッ!」

「想像は想像です!だから俺好みの身体で胸はこのくらいで…」

 悠斗は胸の前に手を置いた。

「バッカ!そんなに小さくねぇーこのくらいはあるな」

 陸も負けじと胸の前に手を膨らませて表現した。

「へー着やせするタイプ?これなら俺の手にぴったりと…」

「よせっ!麻衣のおっぱいに勝手に触んなッ!」

 悠斗が手を伸ばして陸の手で作った胸に重ねると揉み始めて陸は慌てて手を払いのけた。

 陸と悠斗はテーブルを挟んで睨みあった。

 大声で話をするホスト二人の姿を店中の客が遠巻きに眺めている中で顔を真っ赤にしながら近寄る人影。 

 ボカッ!

 ボコッ!

 睨み合う二人の頭上に固いものが落ちてきた。

「一体何の話をしてるのッ!!!」

 顔を上げるとそこには鬼のような形相の麻衣が立っていた。

「ま、麻衣…悠斗がさぁ…」

「麻衣さーん、陸さんが…」

「うるさーーーーいッ!!」

 麻衣の一喝が店中に響き渡った。

(結局この日のご飯は中止になりました。グスン。)



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