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『三月三日』

 三木本庸介、二十歳(ハタチ)です。

 やりたかったモデルの仕事を始めて、今はまぁそこそこ売れてます。

 なんかCMの仕事が来たりして、そのうちバラエティ番組から声が掛かったらどうしよう……とかあるわけもないのに密かに怯えてます。

 そんなわけで(?)顔が世間に広く知られるようになって来たので事務所から「スキャンダル厳禁!!」とのお達しが一ヶ月ほど前に出ました。

 まぁ簡単に言うと「女にうつつ抜かしてんじゃねぇ!!」ってことらしいです。

 でも二日前、かなり久しぶりの彼女が出来ました。

 しかも五歳も年下です。

 これって……きっとバレたらスキャンダル。

 だって俺、二十歳(ハタチ)なのに相手、十五歳。

 実は中学生……です、まぁすぐ卒業するんですけど。

 これって……絶対バレたらヤバイ、よな?

 だからといって……。

「庸ちゃん、ママがね。ひな祭りのケーキ一緒に食べましょって」

「おっ、いいね」

 バイトでいないタクの部屋でマンガを読んでいるとタマがひょこっとドアから顔を出した。

 マンガを置いて部屋を出ると入り口の横に立ったままのタマがジッと俺の顔を見上げた。

「よ、庸ちゃん……」

「ん?」

「つ、つつ付き合うってことは……庸ちゃんじゃ……ダメかな? よ、呼び方とか……」

「呼び方なんて何でもいいよ。俺は今のままで全然構わないし、俺も今まで通りタマって呼ぶぞ? もしかして嫌か?」

「う、ううん……全然嫌じゃないよっ」

 カァッと頬を染める横顔が可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて……(以下略)

 バレたらヤバイとか頭で分かっててもこの顔を他の男に見せたくないから、絶対に手放したくないわけで……。

 社長も世間様も欺いてこの笑顔を守っていきたい……とちょっとカッコいいこと思ったりしてます。

 ただいつも妹にベタ惚れのタクの手前あまりデレデレした顔を見せたくないという微妙な男心。

「あのね……ホントに私のこと……」

「やっぱり気が変わった?」

「う、ううん……そうじゃなくって……庸ちゃんに私なんか……」

「俺がいいって言ってんのに? まぁ……タマが俺のこと嫌なら仕方がないけど」

 少し突き放すように言いチラッとタマの顔を見ただけで背を向けた。

 しまった、さすがにこれはちょっと言い過ぎだ。

 タマに嫌だって言われたら多分立ち直れないけど今さら訂正するなんてカッコ悪いことしたくない。

 あぁ……もちろんタマが嫌だって言ったところではい、そうですかって簡単に離すつもりもない。

 十五歳に二十歳(ハタチ)の俺がこんなに余裕がないってどうなの?

「私……彼氏なんて初めてだし、庸ちゃんみたいにカッコいい人が……、だって私なんてちっちゃいし、可愛くないし、頭あんま良くないし、全然庸ちゃんと釣り合わない……」

「そうだなぁ。タマがオムツしてる頃から見てるし、俺の背中でお漏らししたこともあるし? まぁ……そんなことあげたらキリがないよなぁ。それでも俺はタマがいいよ」

「庸……ちゃん」

「それでも俺は、タマを彼女にしたいって思ったんだ」

 そう十五年間タマのことをすぐそばで見て来て初めて女の子として見えたんだ。

 恋愛なんてまだよく分かっていないタマの目には俺のことはお兄ちゃんの友達程度にしか映ってないのは分かっている。

「嫌……じゃないよ」

 小さな小さなタマの声に振り返ると少し困ったような照れたようなタマと目が合った。

 今はまだそれでいい。

 恋愛ごっこなんて笑われるかもしれないけどいつか必ず本物の恋愛になる日は来るからさ。

「タマ、よろしくな」

「こ、こここ……こちらこそ」

 まるで鶏みたいに頭を下げたタマはまだ子供みたいなのに顔を上げた時の笑顔にウッとなる。

 しつこいようですが、俺……三木本庸介、二十歳(ハタチ)、職業モデル。

 念のため言っておきますがモテないわけじゃないし、もちろんロリコンでもありません(多分)。

 でも十五歳の女の子に欲情中……やせ我慢と分かっていても大人の男としてそれなりの時期になるまで手を出すつもりは……今のところない。

 今日から俺の座右の銘は『忍耐』です。

end



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