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『知らぬが仏』←BL

 まだ俺が祐二と付き合う前のこと。

 珍しく俺の部屋に遊びに来た……いや、正確には英語の宿題を写しに来た祐二はベッドに寝そべりゲームをしていた。

 普段は奥にしまい込んであるテレビゲーム。

 俺はまったく興味がない、ただこの部屋に祐二が来たらいいと思って好きそうなゲームを揃えている。

「お前って弓道部のくせにいい体してるよなぁ。何でそんなに鍛えてんだよ」

 突然そう言い出した祐二は着替えている俺を見上げている。

 その視線に特別な意味がないのは分かっているけれどジッと見つめられると体が熱くなった。

 ハーフパンツから伸びる足もタンクトップから伸びる腕もまだ華奢な体つきの祐二。

 そんな祐二がいつも俺にコンプレックスを抱いているのは知っていた。

「おい、聞いてんのかよ!」

「うん。そんなに鍛えてるかな?」

「運動部の俺より体つきいいんじゃねぇ?」

 弓道部も一応運動部だし、見ているより結構体力使うんだよ。

 説明したところで半分も聞いていない祐二だから、その思いは胸にしまって祐二が寝そべるベッドに腰掛けた。

「やっぱり男は体鍛えてた方がいいかなって、祐二もそう思うでしょ?」

「ん? まぁ、そうだな。ナヨナヨしてるよりはな!」

「いざって時に好きな子を守りたいし」

「は?」

「何かあった時に好きな子を抱き上げて逃げられるくらいの力は付けたいんだ」

 ゲームをしていた祐二の手が止まり顔を上げる。

 少し戸惑ったような表情。

 俺に彼女がいた事は知っている、祐二にも最近彼女が出来た……。

「やっぱりそういう男の方がいいのか?」

「俺はそう思う。あ、そうだ……ちょっと祐二抱き上げてもいい?」

「な、何でだよっ!」

「祐二を持ち上げられたら、好きな子を抱き上げて逃げられると思うんだ。いざって時に持ち上げられないなんて恥ずかしいだろ、だからさ」

 恥ずかしいって言葉に敏感な祐二。

 分かる分かると大きく頷いてコントローラーから手を離した。

「ごめん、横抱きになるけど」

 仰向けになった祐二の背中と膝裏に手を当てる。

 少し不安そうな表情の祐二が俺を見ているのを感じながらそのまま力を入れて持ち上げた。

「おぉ……すげぇ!」

 自分の体が宙に浮いた瞬間、祐二は驚いた声を上げた。

 ん……思ったより平気だ。

 毎日ジョギングと筋トレを欠かさずにやってきた成果かもしれない。

「俺を持ち上げられるなら彼女とかなら絶対平気だな!」

 ニカッと笑う。

 そんな可愛い笑顔で笑わないで、抱き上げたまま誰もいないところへ攫ってしまいたくなる。

 俺の気持ちはいつ祐二に届けられるんだろう。

 届けてしまったらもう二度とこんな風に触れ合えなくなるかもしれない、そう思うたびこの想いを胸の奥深くにしまい込んだ。

「おい、もう下ろせよ」

「もう少し……持ち上げられてもすぐ疲れてしまうようじゃダメだから。持久力を付けたいんだ」

「そうか。お前も実は努力してんだな。頑張れよ!」

 祐二が俺の胸をポンと叩く。

 努力? そんなのいつでもしてるよ。

 でも努力したら祐二は俺を好きになってくれるのかな?

 だからね、祐二。

 今だけは腕の中の祐二を独り占めしたいんだ、もう少し……もう少しだけこのままでいさせて。

 いつかこの努力が実る日が来る事を願いながら抱き上げる腕に力を込めた。

end 



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