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『未来予想図』

「ふぁぁ……っ」

 アクビをかみ殺せず頬杖を付きながら大きく口を開けた。

 カウンター越しの麻衣はそんな事気に留める様子もなく忙しそうに手を動かしている。

「ねぇ、麻衣ー俺の朝飯ー」

「そこにあるパン食べて?」

 そう言って指差されたのはカウンターに置いてある「おつとめ品」のシールが貼ってある焼きそばパン。

 ちぇっ……何だよ。

 しかも麻衣は顔も上げずに黙々と野菜を切っている。

「ねぇ、麻衣コーヒーは?」

「そこにあるでしょ?」

 むぅぅぅっ。

 いつもだったらパンも温めてコーヒーだってカップに注いでくれるじゃん。

「麻衣ってば!」

「もう……なぁに? 私忙しいんだよ」

 大きな声を出すとようやく手を止めた麻衣が顔を上げた。

 髪を後ろで束ねて茶とベージュのチェックのエプロンをしている。

 日曜日の早朝から慌しく料理の下ごしらえをしているけれどそれは俺だけのためじゃない。

「なんでそこまですんの? 飯だったら外に食いに行けばいいじゃん。休みに早起きしてまで麻衣がやる事ねぇじゃん。俺よりもあいつらのために飯作るとか分かんない」

「陸ー? 拗ねてるの?」

 拗ねてて悪いかよ。

 せっかくの休みで一日中麻衣と一緒にいられるのに朝から麻衣の頭の中には俺のことなんかこれっぽちもねぇじゃん。

 麻衣は俺の気持ちを知ってか知らずか小さく笑い焼きそばパンを温める準備をしてからカップのコーヒーを注いでほんの少しだけ牛乳を入れてから俺の前に置いた。

 それでもすぐに機嫌を直せずにカウンターチェアの上で足を組み替えながら両手の上に顎を乗せて麻衣の顔をジッと見た。

「俺のこと好き?」

「好きだよ」

 真っ直ぐ俺の目を見て微笑みながら麻衣が答える。

 ちぇっ……そんな簡単に答えるならもうちょっと俺のこと構ってくれたっていいじゃん。

「せっかくの休みなのに二人でイチャイチャ出来ない」

「でもみんなとご飯食べたりするのも楽しいでしょ。普段コンビニのお弁当ばかりなんだから月に一回くらいいいじゃない? 私の料理でもみんな喜んでくれてるんだし」

「当たり前じゃん! 麻衣の料理美味いんだよ、あいつらが文句言ったら二度と食わせてやるかっ」

 俺が力を込めて言うと麻衣が嬉しそうに顔を綻ばせる。

 そりゃ店の奴らの事を考えてくれるのは嬉しいけど、俺のためだけに料理を作って欲しいのに……。

「いつかね……私達が結婚して子供が出来たらね。庭のある家に住むの」

 突然、麻衣が話を始める。

 その意図が分からず俺は首を傾げたが麻衣は続けた。

「花壇には花を植えて、桜の木は無理かもしれないけれど春はお花見をしたり、夏はバーベキューをするの。誠さんや悠斗くん、響くんそれにお店の子達を呼べたらなぁって。そのうち家族ぐるみの付き合いとか出来たら楽しいじゃない?」

 そんな事が考えていたの?

「陸の周りに人が集まるのは陸の人柄で、その縁は大切にした方がいいし、その為なら私は色々してあげたい。それにね……私こうやって料理を作るの楽しいの、やんちゃな弟がいっぱい出来たみたいで。そんな出会いをくれた陸に感謝してる。ありがとう」

 あぁ……俺ってめちゃめちゃ幸せだよな。

 お礼を言いたいのは俺の方なんだよ。

 俺が変われたのは麻衣が居てくれたから、麻衣と出会えてなかったらこんな風に誰かがそばにいる幸せを感じることは出来なかったんだ。

「飯食ったら俺も手伝う」

 温まった焼きそばパンを手に取りながら小さく呟いた。

「ありがと。じゃあエビの殻を剥いてもらおうかな」

 嬉しそうな笑顔の麻衣は再び手を動かし始めた。

 麻衣が描く夢をいつか現実にしてあげるのが俺の夢。

end



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