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『和真vs明利』

 ある休日の午後。

 一面ガラス張りの窓からは柔らかな陽光が降り注ぎ白を基調としたカフェはまるで楽園のように穏やかな時間が流れていた。

 ほぼ満席の店内ではあちらこちらから賑やかな話し声が聞こえる。

 ただ一つのテーブルを除いては……。

「え、えーっと……初対面ではないと思うけど……」

 しどろもどろ話し始めたのはかのこだった。

 その隣にはTシャツにジーンズ姿の明利、そしてかのこの向かいにはスーツ姿の和真だ。

 初対面ではないものの出会いが出会いだっただけにこのテーブルには気まずい空気が流れている。

「ちゃんと紹介するね。私の弟の……明利。大学生なの」

 かのこはニコッと笑いながら紹介したが和真は返事も返さずに視線だけでジロッと明利を見た。

 あからさまな態度に明利がムッとした表情を浮かべると和真はフンッと鼻で笑った。

「あ、明利……こちらが如月和真さん……えっと、会社の上司で……私の彼氏」

 言い終わった後に少し照れたように笑うかのこだけが場の雰囲気を読めていない。

 明利は言葉も発さずに和真をジロジロと眺めている。

「あ、挨拶してよ」

 隣に座るかのこは明利を肘で突付く。

 小声で囁いたために明利の体に寄り添うかのこを見て和真の眉間に深い皺が寄った。

「先日はどうも。てっきりヤクザが絡んでいるのかと思い、失礼な態度を取ってすみませんでした」

 どちらが失礼なのか分からない明利の発言に二人の視線がバチッと合った。

 目に見えない火花が飛び散りかのこがオロオロと二人を見ていると和真は不快そうな顔のままかのこを見て口を開いた。

「かのこ」

 その声の不機嫌さにかのこは顔を引き攣らせた。

 まさかその怒りが自分に向いていると思わないかのこは何とかこの場を取り繕うと頭を捻っていると和真がトンッと机の上を叩いた。

「どうしてそっちに座っている」

「はっ?」

 とぼけた返事を返したかのこはギロッと和真に睨まれて慌てて視線をそらす。

 険悪となった雰囲気の中かのこは鞄を持って立ち上がるとそろそろと和真の隣に移動する。

「小っせぇなぁ……」

 ボソッと呟かれた言葉。

 座りかけていたかのこはギョッとしながら顔を上げると明利が不適な笑みを浮かべている。

「何か言ったか?」

「いやぁ……意外に余裕がないんだなぁと思って」

「あ、明利っ!」

 その発言にかのこは顔を青くして慌てるが明利は気に留める様子もない。

 和真もまた眉間に皺を寄せるだけでなく眉を吊り上げている。

「ちょ、ちょっと……二人ともっ」

 二人はかのこの制止も聞かずに睨み合ったまま、まさに一触即発といった感じだ。

「その年でまだシスコンとはな」

「別に恥ずかしくねぇよ。家族を守るのが男の役目だからな。シスコンでもねーちゃんを守れるならじじいになってもシスコンでいてやるよ」

「あ、明利っ……」

 さすがに聞いているかのこの方が恥ずかしくなった。

 明利の視線は真っ直ぐ和真に向けられている。

 和真の完敗だった。

 店に入ってから初めて和真の頬が緩むのを見てかのこは目を見張った。

「家族ってのはありがたくもやっかいでもあるのかもな」

 ボソッと呟いた独り言を聞き取れたかのこはその言葉の重さをしっかり受け止めた。

 ようやく和らいだ雰囲気に三人は冷め切ったコーヒーに手を伸ばした。

end



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