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『キミからの赤』

「それじゃあ、お母さん達出掛けるけど、二人とも時間に遅れないように来るのよ」

「大丈夫だよ、母さん」

「俺ー焼肉が良かったー」

「クリスマスに焼肉なんて嫌よ。それと祐二、ケーキ食べ過ぎないで。貴俊君宜しくね」

 いつもよりも着飾った母さん達が出掛けるのを見送った。

 クリスマスイブの今日は俺と祐二の家族でレストランで食事をする予定で、買い物をする予定の母さん達は先に出掛けた。

 祐二は俺の部屋ではなくリビングでテレビを見ながらケーキを食べている。

 冬休みに入ったばかりですごく機嫌がいい。

 昼前に俺の部屋に来た祐二にキスした時も可愛く応えてくれた。

 でも、祐二分かってる?

 今年は俺達が恋人同士になって初めてのクリスマスだよ。

「祐二」

「んぁ?」

 さっきからずっとCSのアニメ番組を見ている祐二は顔も上げずに返事をする。

 祐二は右手にケーキフォークに苺を刺したまま画面に釘付けだ。

 寝癖ではねている後ろ髪も可愛い横顔にその頬を掴まえて何度でもキスしたい。

 でも……今は我慢だ。

「これ、クリスマスプレゼント」

「え? 俺に?」

「この前欲しいって言ってたCDだよ」

 俺が差し出した緑色の包みを驚いた顔で受け取った。

 持っていたフォークを皿に戻して包みを開けた祐二の顔が本当に嬉しそうな笑顔に変わる。

 ドクンッ。

 たったそれだけで大きく鼓動が跳ねた。

「あ、ありがとな……」

 たった今、嬉しそうな顔をした祐二の表情が曇った。

 確かにCDを見て嬉しそうな顔をしたのに、なぜ今はこんなに困ったような顔をしている?

 ドクンッ。

 今度は不安で胸の奥がざわつく。

「祐二……」

「お、俺っ!」

 話しかけようとすると祐二が俺の言葉を遮った。

 祐二はぎこちなく何度も何度も前髪を弄っている。

 何か話そうとするのに上手く言葉が出てこない時のクセだ、こういう時は急かしたりせずに祐二が気持ちを整理するのを待つのが一番いい。

 少ししてからせわしなく動いていた瞳が止まり不安そうに俺を見た。

「わ、悪ぃ……俺、この前こづかいでゲーム買って……つーか、プレゼントとか……思いつかなくて……その……」

 しどろもどろで説明する祐二。

 あぁ……なんて可愛いんだろう。

 俺にとって祐二自身がプレゼントというよりこの世で一番の宝物なんだってどう伝えたらいいんだろう。

「そ、それで……コレッ!」

「なに?」

「お前、イチゴ好きだろ?? ん、食えっ!」

 あぁ……どうしよう。

 これを俺に食べてくれって言うの?

 フォークに刺したイチゴを俺に向かって差し出す祐二がすごく可愛い。

 母さんの作ったケーキに乗ってたイチゴは昨日スーパーで一パック398円で売ってたうちの一粒。

 それなのになんでこんなに美味しそうに見えるんだろう。

「ほら、口開けろっ」

 知ってるよ、乱暴な口調は照れ隠し。

 この時間が永遠に続いて欲しいのに、早くこのイチゴを口に入れないと祐二の機嫌が悪くなる。

 なんて幸せなクリスマスプレゼントなんだろう。

「ありがとう祐二」

「お、おうっ」

 口の中に入れたイチゴは今まで食べた何よりも甘く俺を幸せにしてくれる味だった。


end


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